賄賂-4
燐は次に目を付けたのは、久子の母親・稲垣暁美である。
暁美は普段、都内にある大手商社に勤務する会社員であった。
「あれが、稲垣暁美か・・・・・・」
燐は真向かいのビルから双眼鏡を使い、稲垣暁美を観察する。
「ねぇ、これ見てて思ったんだけど。理事長の言う変な金の流れなんてないけど」
リリはPTAの帳簿を見ながら、隣で暁美を観察する燐にそう告げる。
「え?」
燐は観察を中断し、帳簿に目を向ける。
「ほらっ、見て」
リリの指す先に書いてある数字に使途不明金の流れは何もなかった。
「本当だ。使途不明金があると思ったんだけど」
「それがないってことは、やっていないんじゃない?」
「そう決めつけるのは早いよ。リリ」
「そうなの?」
「そうよ。裏帳簿があると考えた方が良いわね」
「裏帳簿か・・・・・・」リリはじぃ~っと帳簿を再度覗き込むのだった。
リリに暁美の監視を任せて、燐は理事長を訪ねることにした。
理事長の梅宮は銀座の高級すし店に身を置いていた。
燐が訪ねると、カウンターに座る梅宮は燐を隣に座らせる。
「何か、食べる?」梅宮の第一声はそれであった。
「いえ、結構」と答え燐は本題に入る。
「理事長。どうやって、今回の不正経理にたどり着いたんですか?」
「どうして、そんなこと聞くの?」
「帳簿を見たんですけどね。特に怪しいところが無かったものですから」
「そこまで、知っているのね」
「ええ」
「良いわ。教える。タレコミがあったのよ。理事長宛にね」
「タレコミですか」
「そう。それで、これを調べる適任者がいないかなって思っている矢先、あなたが浮上した」
「浮上って」
「だって、学校をサボって殺人事件を解決しているんでしょ」
「まぁ、そうですけど」
「あなたの件は、退学処分の事例に入れて欲しいっていう学校側の処分申請を私の一存で止めてあげているんだから」
「何で、止めるんですか?」
「だって、面白いから。昔、居たのよ。同じ事をしている高校生のことをさ」
もしかしたら、長四郎の知り合いなのじゃないか燐はそう思った。
「そうですか。なんか、ありがとうございます」燐は素直に礼を述べる。
「気にしなくて良いから。それより、調査の方、宜しくね」
「あ、はい」
すると、梅宮のスマホに着信が入る。
「はい。もしもし? 梅宮ですが」その後に続く言葉に口をあんぐり開ける梅宮。
「どうしました?」燐がそう尋ねると「PTAの役員が殺された・・・・・・」と答える。
「穏やかじゃないな・・・・・・」
「ホント、穏やかじゃないわ」通話を終了した梅宮は続けて「そのタレコミをした役員が殺されたんだよ」と言う。
「え~」燐は驚いていると「現場に向かってくれるかしら、名探偵さん」と現場に行くように促される燐。
「え~」と言うのだった。