都市-12
「塾って苗字、珍しいよね?」
張り込みの最中、燐が話しかける。
「そだね~」
長四郎は吞気に答えながら、缶コーヒーに口をつける。
「ねぇ、あんたの推理道理だとして、どっちが犯人だと思う?」
「分からないな。犯人じゃないかもしれないし」
「何よそれ!!」
「声が大きいっ!!」
すると、会社から帰宅する塾が出てきた。偶然にも、病院に写真があったのでそれを面通しにこうして張り込んでいた。
塾は会社から徒歩15分の距離にあった。
それを確認すると長四郎は「帰るぞ」と告げ、Uターンして帰宅した。
翌日、長四郎と燐は塾の身辺調査を開始した。
塾は真面目な社員であった。営業の傍らサボるなんてことはせず、取引先の病院を訪れてはその病院の担当者と良好な関係を築いてることが分かった。
そして、学校にも商品を卸しているようで二、三校回ってから、営業所へと帰社した。
「なんか、普通過ぎて。本当に犯人なのかな?」
燐はマグロの寿司が載った皿を取りながら、横でいなり寿司を頬張る長四郎に尋ねる。
二人は今、疲れた体と空っぽになった胃袋を満たすために回転寿司に来ていた。
「普通すぎるから怪しいってのもあるんだぞ。ラモちゃん」
長四郎はモニターでイサキの寿司を頼む。
「普通すぎるから怪しい? どういう事?」
「どういう事? って、そういう事でしょ」
「説明になってない!」
燐はそう怒りながら、中トロのマグロの寿司を手に取り頬張る。
「ラモちゃん、そう怒りなさんな。今日、付いて回って気にならなかったか?」
「何が?」
「何が? じゃなくて。学校だよ。学校」
「え? だって、あれは保健室と災害用の救命救急セットを卸しているんだって。あんた、自身言っていたじゃない」
「そうだけどさ。三校も回るってのはなぁ~」
「何が不満なのよ」
「いやだからさ、一日で三校も回るってのが解せないんだよ。まるで」長四郎は燐が取った中トロの残り一貫を口に入れる。
「あ、私のマグロ!!」
「マグロなんかどうでもいいの。まるで、依頼人を探しているようじゃないかってことだよ」
「え? じゃあ、学校を回っては紘一君を探してるってこと?」
燐はそう言いながら、取られた復讐がてら長四郎の脛をコンコンと蹴り続ける。
「痛いんだけど」
「私の心はもっと、痛いんだけどなぁ~」
「そんなの俺が知るかっつーの」
「何ぃ~?」
燐は強い蹴りを長四郎にお見舞いする。
「グボッ!!」
長四郎は食べたものが口の中から出しそうになるのをグッと堪え、痛みにも堪え正に二重苦であった。
「で、紘一君が狙われてるの?」
「だと思うよ」
涙目の長四郎はそう答える。
「狙いは目撃者の抹殺か・・・・・・」
「抹殺って。もうちょっと、言い方があるでしょ」
「でも、、事実でしょ?」
「そうだけどもさ」
「じゃ、紘一君に会ってそのことを伝えないと」
「ラモちゃん、恐怖心を煽るようなことすな」
「あ、そうか。ごめん」
「俺に謝れられてもな」
「で、どうする? これから」
「引き続き、塾をマークだな。ラモちゃんに任せるわ。俺はその間にちょっと、したいことがあるから宜しく」
長四郎は燐に会計を任せて、店を出た。