都市-2
「ご両親の許可、取り付けてたよ」
その日の夕方、事務所に舞い戻ってきた燐は長四郎にそう告げた。
「なんで、厄介事を持ち込むかなぁ~」
浮気調査の報告書を作成していた長四郎は迷惑だ。みたいな顔をする。
「そんなこと言って、本当は気になるでしょ?」
「気にならないね。小僧が殺人事件の現場を目撃したってだけだろ? だったら、探偵の出番ではなく警察の出番だ」
「でも、依頼は受けちゃったんだから」
「今すぐにでも、断れよ」
「それは無理な話ね。前金もらったから」
「はい!?」
長四郎はまさかの前金に驚きを隠せなかった。
「着手金として、10万円。貰ちゃったぁ~」
嬉しそうにバッグから10万円の入った封筒を取り出して、長四郎に見せつける。
「はぁ~」というため息の後に長四郎は口を開いた。
「ラモちゃんが勝手に引き受けたんだから、ラモちゃんがボディーガードしろよ」
「助手に何ができるって言うんだよ」
「助手ってラモちゃんが勝手に名乗っているだけだし。明智小五郎の助手・小林少年は一人で事件を解決しようと奮闘するよ」
「小林少年って誰?」
「ジェネレーションギャップか・・・・・・・」
「いや、違うと思う」燐にあっさり一蹴されるのだった。
こうして、常盤紘一少年の依頼を受けることとなった長四郎は燐に引きずられる形で紘一がトリガさんを目撃した湯島天神へと向かった。
「う~ 寒いねぇ~」
春とはいえ、夜になると冷え込むので燐は身震いする。
「そう思うなら、帰れば良いじゃない」
「そう言う訳にはいかないでしょ。さ、トリガさんを探すよ」
燐は長四郎の尻をバンッと平手打ちして気合いを入れる。
「ここで見たって、言ってたんだよね」
燐は湯島天神の本堂に通ずる道の途中にある立ち入り禁止テープのところで長四郎に聞いた証言を伝えた。
「ここでねぇ~」長四郎はそう言いながら、しゃがんで立ち入り禁止テープの向こう側を見る。
「何かあるの?」
「何もないな。で、あのKidsはどこに居たって?」
「ええと、ここに居たって」
燐は自販機で身体を隠すようにしながら、紘一が見た時の状況を身体を使って伝える。
「自販機に身を隠していたか・・・・・・ その後は?」
「その後は、一目散に逃げたって」
「でも、トリガさんとやらは追っかけなかった。普通は追っかけるよな?」
「追っかけるね」
「ふむ」長四郎は人差し指で顎をトントンと叩きながら、何かを考え始める。
「何か、分かりそう?」
「そんな簡単に分かるか!」
「何、怒ってんの?」
「怒ってねぇよ」
「怒ってんじゃん」
長四郎は犯人の気持ちが読めず、少し苛立っていた。
「で、親御さんにはこのことは?」
「知っている。聞いた時は、噓だと思ったらしいんだけど、ここで事件があったって分かったら信じたらしい」
「で、警察には?」
「言ってない」
「やっぱり、警察に話したほうが良い気がするな」
「じゃあ、この仕事降りるの?」
「その必要はなかばぁ~い」
長四郎の後ろから聞きなれた博多弁が聞こえてきた。
「うわっ!? 一川さん!!」
長四郎は驚きざまに振り返ると、馴染みの刑事がそこに居た。
「どこから話、聞いていたんですか?」という燐の問いに「仕事降りるの? 下りからばい」と答える一川警部は続ける。
「いや、実はここ文京区内で立て続けに殺人事件が起きとうと。そげんやから、長さんのお知恵を借りたいそう思ったところに、長さんが来てくれとうけん。あたしは嬉しかと」
「嬉しかとじゃないですよ。結局、こうなるのか・・・・・・」
長四郎はガックリと肩を落とし、燐はガッツポーズをする。
「これから、近くの警察署で捜査会議があるけん。長さん達もおいで」
「行きます!!」燐は目を輝かせて挙手する。
それとは対照的に長四郎は、げぇ~ という顔をするのだった。