世界-11
下の階の住人から話を聞きこむ為に、三人は一階に降りた。
「一階に戻らないと下の階に行けないって面倒くさいよね」燐はぼやく。
「そうだなぁ~」
長四郎はそう答えながら、インターホンに部屋番号を入力し、インターホンを鳴らす。
一分程して、「はい」という返事が帰ってきた。
「あ、どうも。警察です。上の階の住人についてお話をお聞きしたいのですが、宜しいでしょうか?」
「え? あ、はい」
下の階の住人は女性のようであった。
「女の人だったね」
「そうだな」
長四郎は適当に返事をしながら、エレベーターへと乗り込む。
そして、事件現場の下の階へと上がった三人を出迎えたのは、テレビタレントの子安であった。
彼女は自衛隊出身のタレントで、一昨年から台頭してきたタレントの一人であった。
「あの、何か?」
「いえね、上の階の人について何か知っていないかなと思いまして」
長四郎は質問しながら、子安の体格を観察する。
小柄で引き締まった身体をしていた。
「いえ、存じてません」
「でも、苦情。入れられてましたよね?」
長四郎は灰尾栄光の会社に届いていた苦情のカードを切った。
「よく知ってますね」
「ええ、まぁ」答えを濁す長四郎。
「あの、どういった苦情だったんですか?」
長四郎の質問をダメにしてしまう質問をする燐。
「騒音です」きょとんした顔で燐の質問に答える子安。
「騒音ですかぁ~」燐は意味ありげな感じの返しをする。
「すいません。変な質問をしてしまって」
「いえ」
「あの差し支えなければ、リビングルームだけ見させてもらっても宜しいでしょうか? ここのフロアと上の階が同じ間取りであるとのことで。事件解決の為にご協力願えませんか?」
「あっ、はい。分かりました」
子安は少し嫌そうな顔をしたが、快く? 了解してくれた。
「探偵さん。この部屋見て何になるんです?」
子安に聞かれないよう小声で長四郎に耳打ちする。
「見たら、何かが分かるの?」
「そうなんですか?」
「そうだよ」
「ここがリビングルームです」
子安は三人を案内しながら、部屋へと招き入れる。
「ありがとうございます。すぐに終わりますから」
長四郎はそう言い、すぐにダストシュートの方へと向かった。
「あれ?」長四郎は変な声を出したことにより二人が様子を見に来た。
「どうしたの?」何があったのか説明を求める燐。
「あ、いや、これ。上の奴とは違くない?」
長四郎はダストシュートを指差す。ダストシュートは人が入れないようなカバーがしてあったのだ。だが、灰尾栄光の部屋にはその様なカバーがなかった。
「カバーだね」と燐が言う。
「うん、カバーだ」と遊原巡査が言う。
「君たち、同じ事を二回も言わなくて良いから。それよりもだ」
長四郎はダストシュートをまじまじと観察し始める。
そこで、長四郎の推理は確証へと変わった。変わるものを見つけたのだ。
「OK, 分かりました」
「何が分かったの?」
「色々ね」
長四郎が燐の質問にいつものようにはぐらかして答えている中、遊原巡査は電話対応をしていた。
「はい。はい。分かりました」電話を切った遊原巡査はすぐに「探偵さん。面倒なことになりました」そう告げた。
「面倒? 何?」
「倉久賢が犯行を認めました」
「Oh , Shit!!」
「マズいじゃん」と燐もこの状況のヤバさを理解していた。
「ああ、マズい。遊原君、警視庁に戻ろう」
「はいっ」
三人は適当に子安に礼を述べ部屋を後にした。