世界-10
「急に呼び出されたと思ったら、鑑識作業しろ。ですもんね」
鑑識課の八雲警部補は、呼び出した佐藤田警部補にちくりと嫌味を言う。
鑑識課に伝手がない遊原巡査は上司の佐藤田警部補に頼ると、八雲警部補を連れて来たというわけだ。
「ごめんね」と形だけの謝罪をする佐藤田警部補。
「もう良いわ。それで、どこを鑑識すれば宜しいのかしら?」
「あ、それなんですがね」ここで長四郎が会話に入ってくる。
「貴方は?」
「あ、申し遅れました。五反田で探偵をやっている熱海長四郎と申します」
長四郎は名刺を渡す。
「今度は探偵さん。佐藤田さんは本当に物好きねぇ~」
「それ、どういう意味?」
「で、探偵さん。私達はどこを鑑識すれば宜しい?」
佐藤田警部補の「ねぇ、どういう意味?」という発言を無視して長四郎に指示を請う。
「ここです」
長四郎はダストシュートを指差して鑑識する場所を伝えた。
「そこ?」
「はい。と言ってもこの中何ですけど・・・・・・」
「中?」
八雲警部補は懐中電灯を照らし、中を覗きながら長四郎に問う。
「分かりますか? ここなんすけど」
長四郎はレーザーポインターを使い、内側の部分を指す。その先にあるのは下足痕であった。
「こんなところに?」
「そうなんです。こんなところに何ですけどね」
「分かりました。何とかして下足痕を取りましょう」
「お願いします」
こうして、ダストシュートの鑑識作業は始まった。
「ねぇ。何であの中に靴の後があるのが分かったの?」
「ラモちゃん。それはねぇ~ 超能力のおかげ」
「ふざけてんの?」
「ふざけてる」長四郎は即答した。
「ふざけんな!」
燐のキックが長四郎の脛にヒットする。
長四郎は当然の如く、悶絶するのであった。
「探偵さんはもしかして、あそこから犯人が侵入してきたそう考えているんですか?」
遊原巡査の質問に長四郎は痛みにうんうんと頷きその通りである事を示す。
「ウッソぉ~」燐はその推理に驚愕する。
「ラモちゃんが驚くのも無理もないですけど。どういうことなのか? 説明してください」
「遊原君。答えはそのまんまの通りだよ。犯人はあそこから侵入して、灰尾栄光さんを殺害した」
「でも、タワマンの高層階ですよ? そんな度胸のある奴なんすか? 犯人は?」
「知らないよ。度胸があるのかどうかは。でも、あそこから侵入したのは間違いない。という事で、関係ないかもだけど下の階の住人に話を聞きに行こう」
「了解」
「分かりました」
二人はそう返事をして、長四郎と共に下の階へと降りていった。
「佐藤田さん。今度はあの探偵さんと何をするつもりなの?」
鑑識作業の傍ら、佐藤田警部補に質問する八雲警部補。
「何もしないよ。一緒に事件を解決するってところかな? で、どう?」
「そうね。あの探偵さんの言う通りかも。犯人はここから部屋に侵入したと考えるのが妥当ね」
「そうなんだ」
「そうなんだって、貴方もそういう考えだったんじゃないの?」
「え? 何で分かるの?」
「貴方と何年、付き合っていると思うの?」
「あ、うん」
「それで、佐藤田さんの考えは?」
「ここにロープを引っ掛けて昇って、被害者を殺害した。ここまでは、探偵さんと同じ。犯人像としては、そうだなぁ~ こういう事に長けている人物ってところかな? 後、小柄だね」
佐藤田警部補はロープを昇るジェスチャーをしながら、解説する。
「ま、貴方の推理が当たっているのか、期待しておくわ」
そう告げ、八雲警部補は鑑識作業へと戻っていった。