世界-8
翌日、長四郎と燐は警視庁へと訪れた。
「おはようございます。探偵さん」
出迎えた遊原巡査が朝の挨拶をする。
「おはよう。昨日はありがとうね」
長四郎は例の下の階の住人の証言について礼を述べる。
「いえ、役に立ちましたか?」
「いいや。立ってないな」
「なんで、そういう事言うわけ?」と燐が言う。
「本当の事なんだもん」
子供みたいな事を言うな。燐はそう思った。
「今日はどうしますか?」
「今日はねぇ~ 被害者の職場でもう少し調査したいな」
「分かりました」
斯くして、三人は再び被害者の職場へと向かった。
「またですか?」
副社長の姐母は怪訝な感じで三人に応対する。前回、来たときとは打って変わった感じで長四郎達はビックリする。
「ええ、またです。被害者って、社内で敵を作っていたのではないかと思いまして」
「確かに弊社の社員が逮捕されましたけど。そのようなことは」
「それはこっちで調べますから」と遊原巡査が答えると「そうですか。手短に願いますよ」と姐母はそう言い付け去っていった。
「何、あのおっさん・・・・・・」
「ラモちゃん、ちょっと見ない間に人というものは変わるものだよ・・・・・・」
「なんそれ」
「さ、お二方、聞き込みしますよ」
「はい」長四郎と燐は声を揃えて返事をする。
社員に聞き込みを開始した。が、社長の悪口を言うものは一人も居なかった。
「ダメだ。事件に繋がる話なんて何一つ出て来やしねぇ~」
休憩所の自販機コーナーで長四郎はぼやく。
「ホント、それ」燐も慣れない聞き込みに疲れたらしく、ぐったりする。
「探偵さん。これ、意味あります?」
遊原巡査がそう聞くと「なかったな」と素直に認めた長四郎。
「おい!」すぐさま、燐がツッコミを入れる。
「そうカッカしなさんな」
「カッカするよ」
「ラモちゃん。捜査ってのは、トライ&エラーの繰り返しだから」
「え~」
「修行が足りんな。ラモちゃんは」
「そう。足りない」遊原巡査も長四郎の発言に同意する。
「何、それぇ~」
「で、お次はどうします?」
「お次はぁ~ お昼ご飯食べながら考える」
「了解です」
「残り五日だよ? 大丈夫なの? そんな吞気な感じで」
「え? 大丈夫なんじゃない?」と吞気な事を言う長四郎に燐は「絶対、大丈夫じゃないな」と告げるのだった。
長四郎達が聞き込みをしている頃、警視庁内にある留置場に佐藤田警部補は居た。
「あ、どうも。差し入れです」
佐藤田警部補はそう言いながら、チェーンのハンバーガー店の紙袋を携えて倉久の居る留置場に入る。
「どうも」
「あ、これ。食べてください」
「いや、でも・・・・・・」
「これ食べたから、有罪になるわけじゃないですよ」
佐藤田警部補は紙袋から自分が飲むコーラのカップを取り出し、ちゅうちゅうとストローで吸いながら飲み始める。
「ホントに頂いても?」
「あ、どうぞ」
「では遠慮なく頂きます」倉久は誘惑に勝てず、紙袋に手を出す。
倉久はダブルチーズバーガ―に手を取り、美味しそうに頬張る。
「すいませんね。時間かかっちゃって」
「いえ・・・・・・」
「あ、そうだ。犯人に繋がりそうなものが出てきましたよ」
「本当ですか!?」
「ええ、まぁ」
「それで、犯人は誰なんです?」
「う~ん。それはお教え出来かねます。ごめんなさいね」
「そうですか。あ、もしかして、この前取り調べに来た探偵さんが犯人を?」
「ま、そんなところです」
チキンナゲットのバーベキューソースに封を開けて、ポテトにバーベキューソースを付けて食べる佐藤田警部補。
「私は、あと五日で無実を証明できるのでしょうか?」
「できるんじゃないですかね? 探偵は依頼を守ってなんぼの仕事ですから。さ、食べて。あの汗臭い刑事の取り調べに備えましょう」
佐藤田警部補はハンバーガーを倉久と食べながら、取り調べでの対応術を指南するのだった。