世界-4
「ありがとうございました」
長四郎はマンションのコンシェルジュに礼を述べる。
燐のせいで落としてしまったスマホを、ゴミをかき分けて探してくれたとても親切なコンシェルジュは長四郎のスマホを見つけ手渡してくれたのだ。
「仕事ですから」のカッコイイ一言を告げ、自分の仕事に戻っていた。
「プロの仕事人だな・・・・・・」長四郎がコンシェルジュに感心していると、「見つかった?」と燐が声をかけてきた。
「見つかった」
「良かった」
「何も良くねぇ」
「そんで、犯人分かった?」
「分かる訳ないだろ。超能力者じゃないんだから」
「使えねぇ」
「なんか、言った?」
「ううん、何も」燐は首を横に振ってすぐに否定した。
「戻るぞ」
「御意」
二人は事件現場の部屋へと戻っていった。
「お帰りなさい」
部屋に戻ると遊原巡査がそう言って、二人を出迎える。
「まだ、ここで調べますか?」
「うん、もう少しだけ」
「分かりました」
長四郎は、キッチンに再び戻り先程見ていたシューターに視線を向ける。
「探偵さんもそこが気になるんですね」
「その言い方だと、佐藤田さんもここを気にしていたって事?」
「あ、分かります? そうなんすよ。班長もそこを頻りに気にしていて」
長四郎は遊原巡査のこの言葉を聞いて、自分の推理に自身が持てる気がした。
「そうか。気にしてたか・・・・・・ なぁ、下の階ってどういう構造になっているの?」
「確か、この部屋と同じ構造だったかと」
「聞き込みはしたの?」
「形だけですがしましたよ。何も聞き出せませんでしたが」
「形だけって。なんか、嫌な言い方ね」燐が嫌味を言う。
「ラモちゃんは知らないかもだけど、このご時世、聞き込みで聞ける情報ってのは本当に薄いものなんだよ。人間関係が希薄になっている昨今、聞き込みより防犯カメラ映像の方が遥かに優秀だったりするんだよ」
「へぇ~」燐は興味なさそうに返事をする。
「遊原君。聞き込みした調書みたいなの見れる?」
「ああ、本部に戻れば」
「じゃあ、戻ろう」
「もう良いの?」
「うるさい、小娘だね。じゃあ、ラモちゃんだけ残る?」
「行くわよっ!」
長四郎の臀部に蹴りをお見舞いする燐。
その頃、警視庁本庁の取り調べ室では、倉久賢の取り調べが行なわれていた。
「おい、いい加減認めたらどうだ?」
机をバンッと叩いて、威圧する刑事A。
「僕は灰尾さんを殺してはいません」
「でもねぇ~ 状況証拠がそれを物語っているんですよ」刑事Bが言う。
「何度も同じ事を言わせないでください。僕は殺していない!!」
「聞き飽きたよ。あんたは、灰尾さんを殺害した後に自分の犯行ではないよう凶器をどこかへ隠した。そうだろ? どこに隠したんだ?」
「隠してませんっ!!」
刑事Aは、刑事Bにカメラ映像を止めるよう目で合図を出す。刑事Bも了解の旨を頷いて答える。
カメラのスイッチを切ろうと手を伸ばした時、取り調べ室のドアが開いた。
「どうもぉ~ お茶の差し入れです」
お盆に人数分のお茶を載せて部屋に入る佐藤田警部補。
「あんたは、捜査を外されたんじゃないのか?」刑事Aが問う。
「あ、そうなんですけど。給仕係で復帰する事になりまして。さ、お疲れでしょう。まぁ、お茶でも飲んで一息いれてください」
「そんな暇はないっ!」
「そうカッカしていると、裁判の時に不利になりますよ。録画されているんだから」
刑事Bが刑事Aに耳打ちし「ちょっと、頭を冷やしてくる。行くぞっ!」刑事Bを引きつれ取り調べ室を出ていった。
「ごめんなさいね。さ、お茶が冷めないうちに」
佐藤田警部補は倉久にお茶を出した。
「ありがとうございます。頂きます」
口を付けると緑茶の良い香りと程よい渋みが口の中に広がり、倉久は少し落ち着いた気分になる。
「大変ですね。冤罪ってのは」
「はぁ」
「今、部下が貴方の無実を証明する為、奔走してますんでもう少し辛抱してください。じゃ」
佐藤田警部補は倉久にペコリと頭を下げて取り調べ室を後にした。