世界-3
「犯人の侵入経路は玄関・・・・・・」
長四郎は再び玄関に戻ってきた。
「ラモちゃん。ラモちゃ~ん」
別の部屋に居る燐を呼ぶと「何?」と姿を現した。
「悪いんだけど。鍵を遊原君から貰って一階に降りてくれない?」
「なんで?」
「何でも」
「嫌よ。自分がやれば良いでしょ?」
「使えねぇ、助手だな。遊原く~ん」ちくりと嫌味を言い今度は、遊原巡査を呼ぶ。
「はい。はい」という返事と共に遊原巡査が玄関へと来た。
「悪いんだけど、一階に降りてくれる?」
「分かりました」すぐに了承する遊原巡査の手からルームキーをひったくると燐は「行ってくる」と言ってからエレベーターに乗り込む。
「ああ、一階に着いたら電話してね」
閉まるドアを同時にそう言う長四郎。
「で、何を?」
「いや、ルームキー無しじゃここに上がれないでしょ?」
「そうですね。だから、密室殺人事件として世間で騒がれている訳ですから」
「犯人が合鍵を作ったとして、エレベーターのロックを解除してここに来たとしよう。でも、エレベーターのチーンみたいな音で気付くんじゃないのかなって、思ってさ」
長四郎はそのまま事件現場の寝室へと向かう。
寝室に入ると同時に一階に到着した燐から着信が入る。
「もしもし? じゃあ、戻ってきて」
「はぁ? 何それ?」
「言い合いしても埒が明かないから、早く!」
「分かった」の後に盛大な舌打ちが聞こえた。
それから、3分も絶たない内に燐を乗せたエレベーターが到着した。
「聞こえるね。チーンって音」
「そうすね」
「ねぇ、何か分かったの? 今ので?」
「うん、少し。ありがとう。偶には役立つじゃない」
「それ、どういう意味?」
地雷を踏んだ。長四郎はそう思ってそそくさと部屋を出ていく。
燐から逃げてきた長四郎が入ったのは、リビングルームであった。
「物取り、ではないよな・・・・・・」
捜査資料にはそのような記載はなかった。が、長四郎はこの事実にどうもしっくり来てはいなかった。そのしこりが何なのか、それが分からずモヤモヤしていた。
「エレベーターの音で被害者は気づくって、本当?」
遊原巡査から長四郎の推理を聞いた燐がそう尋ねてきた。
「かもしれない。っていうだけ。でも、気づいていたら普通、玄関から寝室へと通ずる廊下から争う形跡が残るはずだろ?」
「確かにぃ~」
「でもな、その逮捕されたっていう人は、合鍵も持っているし、被害者とはツーカーな関係らしい。だから、ここへ侵入しても被害者は疑う余地はないだろうな」
「じゃあ、やっぱり倉久さんが犯人って事?」
「状況証拠だけで言えば、そうなるよな」
「ダメじゃん」
「ダメじゃんねぇ~」
長四郎は眉をしかめながら、キッチンへと場所を移す。
「立派なキッチンだこと・・・・・・」
キッチンシンクやレンジ台を見ながら感心していると、気になるものを見つけた。
「なんじゃこの穴は?」
「それ、ゴミのシューターじゃない」と燐が言う。
「ああ、聞いたことある。タワーマンションの上層階には、ゴミ捨て場に繋がるシューターがあるって。流石、タワマン住み」
「エッヘン!」
胸を張って喜ぶ燐を見て、何がエッヘンだよ。と言葉に出しそうになるのをグッとこらえる長四郎はシューターの穴に変な引っ搔き傷があるのを見つけた。
下側のへりの中央に何かを引っかけた時にできる引っ搔き傷があるのだ。
「すぅ~」長四郎は深く息を吸込み、シューターの中に顔を突っ込むが暗くて何も見えない。
一度、顔を出した後にスマホのライトをONにして、再度、明かりを灯しながら中を覗く。
「何かあったの?」
「・・・・・・」息を止めている長四郎は答える事が出来ない。
「聞いてるの?」
燐が長四郎の背中をちょんと押すと、長四郎の手からスマホは落ちシューターの深い闇の中へと消えていった。




