世界-1
宇宙・・・・・・
水も空気もない大きな闇。
そんな闇に人は何故、憧れや夢を持つのか。
それは、きっと未知なる体験が待っているからであろう。
今回は、未知なる体験のお話・・・・・・
「宇宙人!?」
羅猛 燐は素っ頓狂な声を出して驚く。
今、目の前にいる依頼人の女性が宇宙人であることを告白したのだ。
「声が大きいです」
そう燐に注意する依頼人アルテイシア 升美。日系のアメリカ人となっている彼女の正体は宇宙人である。
「すいません。え? 何か超能力を持っているんですか?」
燐はありきたりな質問をする。
「地球人より少し頭が良いだけです」と答えるアルテイシア。
アルテイシアがこの事務所を訪れたのはほんの10分前の事であった。
燐は春休みの暇つぶしに私立探偵の熱海 長四郎の事務所を訪れたのだが、生憎、長四郎は留守しており事務所のソファーでくつろいでいた所にアルテイシアが訪ねてきた。
長四郎の代わりに依頼人の受付をすることにした燐が依頼内容を聞こうとした時に彼女がポツリと自分が宇宙人である事を吐露したのだ。
そして、燐はありきたりな質問をしたというわけだ。では、話に戻ろう。
「頭が良いんですね」
燐はアルテイシアの言うことを信じておらず、肩を小刻みに揺らす。
「それで、依頼なんですけど」
「ああ、はい」
本題に入るんだ。と思いながらアルテイシアの話に耳を傾ける。
「この人の無実を。証明して欲しいんです」
アルテイシアはそう言って、一枚の顔写真を机の上に置いた。
そこに映っていたのは、若い男であった。
「彼は、倉久 賢。地球では日本人男性で通っています」
「はぁ。この倉久さんは何の罪で警察に?」
「殺人です。つい先日、報道された密室殺人事件の」
「ああっ!! アレですか!!!」
燐も知っている事件であった。
三日前、港区のタワーマンションで殺人事件が起きた。
被害者はベンチャー企業社長の灰尾 栄光 38歳。彼はタワマンの最上階に住む所謂成金金持ちの類であった。よって、多くの敵もいた。
その中で、彼は殺害された。そして、第一発見者の倉久が容疑者としてそのまま逮捕されたのだった。
このタワマンの最上階はエレベーターを降りると、最上階の部屋と直結の部屋であった。
よって、第一発見者の倉久が最重要容疑者として逮捕された。
「彼は人殺しをするような人じゃありません」
「それは、分かりました。でも、頭が良いのなら彼の弁護できるんじゃないですか?」
「私の仕事は弁護士ではありません。それに時間がないんです」
「時間ですか?」
「はい。一週間以内に彼の無実を証明して釈放してください。謝礼はたっぷりとさせて頂きますので。失礼します」
アルテイシアは、燐に一礼し、事務所を後にした。
そのすぐ後に長四郎が帰ってきた。
「お帰り」
「ただいま。って、何、当たり前な顔で人の事務所に居座ってんだよ」
「さっき、依頼人が来たわよ」
「え? 嘘。誰とも会わなかったけど」
「会わなかったけどって、嘘つけ。そんなわけないでしょ? だって、今、さっき出ていったんだよ」
「いや、ホントに会わなかったって」
「マジで?」
「マジ」
「え? じゃあ、本当に宇宙人?」
「宇宙人? なんじゃ、そりゃ?」
「いやね」
燐はこれまであった経緯を話した。
「で、気安く依頼を受けたの?」
「気安くって、言い方はないでしょ? それに、報酬は弾むって言っていたし」
「報酬は弾むって・・・・・・ う~ん」
長四郎は考え込む。
「どうする? 受けるの?」
「受けぇ~るっ!!」
某芸人のモノマネをする長四郎。
「じゃ、警視庁に行こう!!」
こうして、二人は事件の詳細を知るために警視庁へと向かった。