幻想-21
六人が声のした方に行くと、真田純が二人の女性刑事に取り押さえられていた。
「真田さん!?」剛士が素っ頓狂な声を出す。
「ああ、もうっ! 犯人はお前だぁぁが出来なかった」
「んな事は、どうでもいいの!」燐に後頭部を叩かれる長四郎。
「どうして、真田さんが・・・・・・」
川久保はショックを受け、剛士を除く二人も川久保と同じ反応をする。
「クソっ! 離せ!!!」真田は今まで聞いたことのない怒声を出して拘束から逃れようとする。
「さ、どうして殺す必要があったのか。知りたいですね」
「あいつ、私に散々貢いどいて金を返せと言いやがって。裁判するっていうから」
「だから、殺したっていうの?」燐がそう問うと「そうだよ。悪いか!!」ぶりっ子めいた言い方は演技であることが分かり男どもは感嘆する。
「ひでぇ話」
「ふざけんな!」燐が怒鳴ると「あんた、そんなふざけた理由で人を殺すわけ? しかも、ライブ中に。あんたは知らないだろうけど、アイドルってのはねぇ、あんたら客が見えない所で必死に努力しているんだよ! それをなにさ」
「ラモちゃん、落ち着いて」長四郎は燐を宥める。
「にしても、恐ろしい人だ。自分の職場とそれに似た場所からしれっと採取して毒を作るんだから」
「何とでも言え! 私は初犯だから10年もしたら出てくるんだよ!!」
真田は勝ち誇ったかのように高笑いをする。
「初犯じゃないでしょ? 初犯じゃ。あんたは、二年前にも人を殺害しているんだから。まだ、余罪があるんじゃないですか。必ず、立証して見せますから首を洗って待っていろ!!」
「嫌だ。嫌。嫌ぁ~」
自分のしたことの代償に恐怖しながら、連行される真田純を見送るのだった。
数日後
「という事で、ご主人は浮気しておりませんでした」
長四郎は剛士の妻である獲濡民代に調査報告をしていた。
「なんで、またアイドルなんかに・・・・・・」
ああ、これは新たな火種の予感と思っていたら、「どうして、私を誘ってくれないの!! この子なんかとっても可愛いのに」剛士の推しの桃田春恵の写真を見ながら民代はそう言う。
「ここで、大変申し上げにくいのですが・・・・・・」
「何です?」
「実は、ご主人に調査の事がバレまして」
「えっ!?」
「どうぞぉ~」
長四郎がそう言うと同時に剛士がトイレから姿を現す。
「本当にすまない!!」
剛士は土下座して詫びるが民代は「もうっ! ややこしい真似しないでよ! これからは夫婦で推し活するわよ。良いわねっ」と剛士の顔をあげさせながら言う。
「あ、ありがとう!!」
見るに堪えない中年のハグを見せつけられた長四郎は、手をつないで帰る夫婦をただただ見守ることしかできなかった。
完