幻想-16
長四郎達がお台場に居る頃に話は遡る。
「絢さん。こんだけの資料から事件を探し出すって大変じゃないですか?」
明野巡査は山積みに積まれた紙の報告書を見て、思わず愚痴をこぼす。
「泉ちゃん、ボヤかない。これも刑事の仕事の内よ」
「はい・・・・・・」
相棒を手伝ってもらおうかとも思ったのだが、あいにくの非番で今日は不在であった。
部屋で、競馬新聞を読みながらボぉ~ っと過ごしている上司を呼びつけようかとも考えたが、辞めた。何故なら、役に立ちそうになかったからだ。
「取り敢えず、過去5年で今回の事件に似たようなものがないかを探すよ!」
「はい!!」
女子二人、顔をパンパンっと顔を叩いて気合いを入れて資料に目を通し始める。
それから二時間が経過した。
「あ~ 疲れたぁ~」
最初に声を出したのは絢巡査長であった。
「あ、もう二時間ですね」明野巡査は背筋を伸ばす。
「何か、食べようか?」
「そうですね。何、食べます?」
絢巡査長の提案に乗った明野巡査は、スマホでデリバリーできそうな店を探し始める。
「絢さんは何が食べたいですか?」
「甘いものかな。泉ちゃんは?」
「私も同じ事を考えていました」
「じゃ、甘いもの系で」
「はい」
注文は明野巡査に任せて絢巡査長は再び資料に視線を戻す。
今、見ているのは二年前の資料であった。
「うん?」
そこで何かに気づいた絢巡査長は「泉ちゃん、ちょっと!!」と言って呼びつける。
「どうしたんですか?」
「これ、今回の事件に似てない?」
そこに書かれていた事件は、二年前の5月に起きた事件であった。
男性アイドルがライブ中に意識を失い、そのまま亡くなってしまった。
「男性アイドルですね」
「ダメかな?」
「そんな事はないですよ。気になります」
「私、この事件をもう少し調べて見るから、泉ちゃんは」
「分かってます。ここで、似たような事件がないかを調べます」
「宜しく!!」
絢巡査長は資料をハンドバックに入れて、部屋を颯爽と出ていった。
「うわぁ~ 寺脇みたい」
見送った明野巡査は、出ていく絢巡査長を見てそう呟くのだった。
絢巡査長が向かった先は、男性アイドルの所属事務所であった。そこは燐の所属するジャスティと同じ事務所であった。
「二年前にそういった事がありましたね」
事務所社長の飛電がそう答えた。
「社長さん、その男性アイドルに何かトラブルがあったということは?」
「ありませんね。こちらも客商売なので、ファンとの関係だけでなくプライベートに関しても厳しく管理しておりまして」
「厳しくですか。具体的にどのような」
「男性アイドルはストーカー被害に遭いやすくてですね。その為、ライブ前、後には必ず事務所が送迎するとか」
「ストーカー被害が多いのはよく存じております。プライベートに関してです」
「プライベートに関しては定期的にヒアリングをしてます。問題になりそうな事がないかをこちらで精査しています。勿論、亡くなった子のヒアリングも行っていましたが、特に問題はなかったです」
飛電はヒアリングの際に記入するヒアリングシートを絢巡査長に見せた。
そこに書かれている内容からは、飛電の言う通り問題があるようなものはなかった。
「確かに、これを見る限りではないですね。もしよろしければ、グループのメンバーからお話をお聞きしたいのですが」
「彼らは昨年、解散しましてね。うちの事務所には所属していないんですよ」
「そうですか。分かりました。お忙しい中、ありがとうございました」
絢巡査長はここに居座っても大した成果は得られない。そう思い解散したメンバーから話を聞くことにした。