幻想-15
長四郎と燐はお台場に新設された植物園を訪れていた。
「あった!! ジギタリス!!!」
燐は指をさしながら、ジギタリスの方へと駆け寄っていく。
「そうだな・・・・・・」
長四郎は興味ないといった感じでジギタリスよりも別の物を探しているようだった。
「ねぇ、ジギタリスだよ」
「言われなくても知っている」
「あんたが見たいっていうから当初の予定すっぽかしてここに来ているのに」
「うるさい小娘だねぇ~」
「うるさくて悪かったわね。それで、何を探しているの?」
「はぁ~」とため息をついてから長四郎は看板を指さした。
「注意書きの看板じゃん」
「書いてある内容を見ろよ」
「え?」
そこに書かれていたのは、こういう内容だった。
“園内では走らないでください
植物の枝や茎を折らないでください“
「これが何?」
「ここだよ。ここ」
“植物の枝や茎を折らないでください”の部分を指差して教える。
「枝とか茎? って、もしかして」
「そのもしかしてだ」
「ここから、採取したっていうの?」
「かもしれない」
「自信ないの?」
「本当に? が多い奴だね。ラモちゃんは」
「悪かったわね」
「でも、ここ見てみろよ」
長四郎はジギタリスの枝に白い養生テープのようなものが巻かれている事を燐に告げる。
「ここ、養生されているけど。それが何か?」
「何か? じゃないだろ。ったく、もう」
長四郎は参ったなみたいな顔をして、温室を出ていく。
その後、職員のいる事務所を訪ねた。
「ああ、ジギタリスはつい一週間前にやられまして。それで温室にあの看板を」
そう職員が長四郎と燐に告げた。
「犯人は分かっているんですか?」と長四郎が質問した。
「いいえ。生憎、防犯カメラを設置してないものですから」
「そうですか。つかぬ事をお伺いしますが、平日の来場者とは何人程度のものでしょうか?」
「新設されたばかりなので、1000名程になるでしょうか。あくまでも晴れた日ですが」
「雨の日だとどうなんですか?」今度は燐が質問した。
「そうですね。その半分の500名から800名程度といった所になるでしょうか」
「ありがとうございます。最後にもう一つだけ」
「何でしょう?」
「防犯カメラは設置されてますよね? 出来れば直近、一週間の映像を見させて頂きたいのですが可能でしょうか?」
「申し訳ございません。第三者に見せる場合、申請もしくは令状がなければお見せ出来ないんですよ」
長四郎達、民間人にそのような権限はないので、長四郎はあっさりと「分かりました。今日は帰ります」そう言って、引き下がった。
「帰っちゃって、良かったの?」
「頼み込んでも見せちゃくれないよ」
二人は帰りのゆりかもめの中でそう会話を始めた。
「犯人は、真田純に罪を着せようとしているのかな?」
「どうだろうな。それより、ラモちゃん。次のライブは何時なの?」
「今日。五反田である」
「レッスンとかはどうしてるの?」
「そんな事より事件解決でしょ?」
「そうかもだけど、ラモちゃんがアイドルとして活動しているからには、近くにいる保護者としてその辺がどうなっているかを知りたいのよ」
「いつから保護者になったの?」
「今、さっき」
こいつは本当に適当な生き物だな。燐はそう思った。
「それで、どうなの?」
「どうって。レッスンしてるわよ。月3で」
「意外と少ないのね」
「アイドルも意外と暇じゃないの」
「そうなんだ・・・・・・」
二人を乗せたゆりかもめは新橋に向けて、走るのだった。