幻想-12
長四郎達は、小石川植物園を訪ねた。
「ねぇ、事務所に行くの?」
燐は園に入ってすぐに長四郎に質問した。
「え? 行かないよ」
「じゃあ、何しに来たの?」
「取り敢えず、園内を散策。それからだ」
「何でぇ~」
「あの私、警視庁に戻っても?」
「ああ、ごめんね。ありがとう。絢ちゃんに宜しく」
「じゃ、失礼します」
明野巡査も燐と同じくここに何しに来たのか? 皆目見当もつかないまま帰ることにした。
「ねぇ、どういうこと? 園を散策して何になるの?」
「何になるんだろうねぇ~」
長四郎は誤魔化すように生えている樹木や植物の名前を確かめながら園内を闊歩する。
「もぉ~」燐は嫌気がさした顔で長四郎の後に続いていく。
長四郎は植物好きの客みたいな顔で、植物を観察する。
「あのさ、あんた植物好きなの?」
「い~やぁ~」
「何がい~やぁ~ よ。マジで何、考えてるの?」
「何を考えているのでしょうかねぇ~」
「植物が事件を解くカギなの?」
「ラモちゃんもさぁ~ 少しは謎解きしなよ」
「謎解き?」
「謎解き。俺が今、考えている事ぐらい分かりそうなものだろうに」
「え? 分かんないよぉ~」
「分かんないよぉ~ 俺も使ってみよう」
長四郎がそう言うと、燐のキックが尻に直撃する。
「ぎゃっ!!」
長四郎の断末魔が植物園に響き渡った。
「うるせぇよ。尻叩かれたくらいで」
「あ、やべっ!! 尻が二つに割れた!!!」
「尻は元々、二つに割れてるよ」
燐は呆れた口調で喚く長四郎の首根っこを掴み引きずって歩き始める。
「で、いい加減何しに来たの?」
「何しに来たの? って、捜査でしょ? 捜査」
「捜査してないでしょ?」
「してますよ。植物観察でね」
それのどこが捜査なんだ。燐はそう言いたかったが、長四郎は無視して温室へと入っていった。
「絶対してないだろ」
燐はそう言って、長四郎の後に続いていく。
そして、温室の入り口に枝は折らないでくださいの看板があるのを二人は気づいていなかった。
「う~ん」長四郎は温室の植物を見ながら、頭を掻く。その姿はまさしく金田一耕助みたいであった。
「何を考えこむことがあるの?」
「考えるよ。って、これだ!!」
ある植物の前に立つ燐を押しのけて、その後ろにある植物に目をやる。
「ジギタリス?」
「ほぉ~ これだぁ~」
長四郎は目を輝かせながら、ジギタリスを観察する。
「これが何よ」
「泉ちゃんが言ってたろ? ジギタリスが強心配糖体を含む植物だっていうこと」
「あ、言ってたかも?」
「かもってな。ラモちゃん、これが事件解決の糸口なのになぁ~」
長四郎はジギタリスの枝が三本折れているのを見つけ、そこを写真に収める。
「じゃ、話を聞きに行くよぉ~ん」
こうして、二人は事務所へと向かった。
「あ~ 真田さんは今日、休暇を取っていますよ」
綺麗な頭をした中年職員が二人にそう告げた。
「真田さんはどこか具合でも?」
「さぁ、わかりかねます」
そう言う職員を問い詰めても、何も聞き出せないと思いこの場を去ることにした。
「ダメだったね」
「そうでもない。が、今日休んでいるっていうのがなぁ~」
「え? あの真田とかいう女の人が犯人だっていうの?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「それを調べるって言いたいんでしょ」
「That’s Right.(訳:その通り)」
「でも、なんでコミュニティの姫がコミュニティの男を殺すんだろ?」
「何でだろうねぇ~」
「ホント、女心って難しいね」
「女性のラモちゃんが言ってもねぇ~」
「説得力ない?」
「ない。そもそもラモちゃんには」
「あ~ 聞いてない。聞いてない。そんなんだから、あんたはモテないの」
「モテるモテないは関係ないじゃない」
「いや、あるね。そういうどうでもいい事をグチグチ言うから彼女出来ないの」
「全く、何を言い出すかと思えば」
「図星言われて何も言われなくなったぁ~」
「う、うるさいわ!」
長四郎は気まずそうな顔で植物園を後にした。