幻想-6
長四郎は燐に連れられて、ジャスティが所属する事務所を訪れた。
「社長を務めております飛電と申します」
飛電社長は長四郎に名刺を渡して、自己紹介をする。
「ご丁寧にどうも。私、五反田で探偵をしている熱海と申します」
長四郎もまた自分の名刺を手渡し、名刺交換する。
「燐ちゃんから聞いたのですが、数々の殺人事件を解決してきたとか?」
飛電社長は本題を早速、切り出した。
「そんなことありませんよ」
「噓つき」と燐が謙遜する長四郎に辛辣な言葉を浴びせる。
「お前さんは黙ってなさい」
「あの、話を続けても?」
二人の痴話喧嘩を察したのか、飛電社長は話を進めようとする。
「あ、どうぞ」
「今回の件は、正直言って当方としまして迷惑な話だと思っています」
「結構ストレートな事を言いますね」
「はい。亡くなった金田さんはお金を落としてくれる上客ではあったのですが、この様な形で有名になるのは我々としては」
「ブランディングとして好まれる状況ではないということですか?」
長四郎の問いに「はい」と即答する飛電社長。
「それで、警察よりも先に犯人を見つけ出して欲しいのです」
「んな無茶な」
「いつもよりも先の事をすれば良いだけでしょ」
燐は他人事みたいに適当な事を言う。
「頼みます」
飛電社長は頭を下げて頼み込む。
「犯人を見つけ次第、無条件で警察に突き出す。それがこの事務所に関係する人間でも。それが条件です」
「分かりました。宜しくお願い致します」
「あ、後、今回の探偵料は倍の料金請求させて頂きますから」
長四郎の言うこの条件に渋々「分かりました」と答える飛電社長であった。
事務所を後にした二人が向かった先は、昨日の事件現場である秋葉原のライブハウスであった。
だが、時すでに遅く、ライブハウス前には規制線が貼られていた。
「ああ、中に入れないや」
長四郎は規制線を見るや踵を返し、帰ろうとする。が、燐に首根っこを掴まれそれを阻止される。
「おい、襟掴むのはやめろよ。のびぃ~るだろ?」
「何がのびぃ~るよ。あの中に入る方法を考えなさいよ」
「え~」
「え~ じゃない。」
すると、規制線の中から誰かが出てきた。
「あ、絢さんだ!」
燐は掴んで引っ張っていた襟を離して、絢巡査長に近づいて行く。
「痛っ」その場に倒れる長四郎は地面に転ぶ。
「ラモちゃん。どうしたの?」絢巡査長がそう問うと「いつものですよ」と答える。
これまでの関係性が活きたのか、絢巡査長は何を言っているのかを察した。
「中、見る?」
「はい!」と元気よく返事をする燐は長四郎が居る方に視線を移した。
長四郎はこの場から去ろうとしていた。燐は靴の片方を脱ぎ長四郎目掛けて投げつけた。
回転しながら、飛んでいった靴は長四郎の後頭部に激突し長四郎はその場に卒倒した。
「凄いコントロール」
絢巡査長は拍手を送ると「絢さん。鑑識さんの作業終わりました」とライブハウスから明野巡査が姿を現した。
「泉ちゃん!」
「ラモちゃん!! どうしたの?」
「いつもの。いつもの」
「いつもの?」まだ、関係が薄い燐と明野巡査の間では、絢巡査長のように意思疎通がまだ上手く行かなかった、
「それより、あいつを回収するの手伝って」
燐は明野巡査の手を引いて、地面の倒れたままの長四郎の元連れて行くのだった。
「昨晩、金田 理さんが飲んだのはハイボールでした」
絢巡査長はこれまで得た情報を長四郎と燐に話す。二人は今、事件現場のライブハウスで昨晩の振り返りをしていた。
「ハイボールに毒物が入っていたって事だよね?」
「さぁ?」燐に聞かれた長四郎は首を窄めて適当な返事をする。
「やる気あるの?」長四郎に詰め寄る燐を無視して長四郎は「その被害者が口を付けていたコップは?」と質問した。
「それは、運よく捨てられる前に確保できました。今、鑑識で調べてもらってます」と明野巡査が答えた。
「でも、一番の問題はお客さんなんですよ。帰しちゃったから」
「絢さん。その心配はないですよ。昨日の晩に居たお客を集めれば良いんですよね?」
「そうだけど。ラモちゃん、手があるの?」
燐は満面の笑みで「Of course.(訳:勿論)」と答えた。