幻想-5
「どういう事ですか?」
絢巡査長は説明を求める。
「実は患者の血中からステロイド配糖体が検出されました」
「それってつまり、毒物で殺されたって事ですか?」
明野巡査の問いに意思は「強心剤に含まれる成分なのですが、異常な数値を出してまして」と答えた。
「事件の可能性が高い分けか。分かりました。ありがとうございます。ご遺体はもうしばらく預かってください。司法解剖になるかもしれないので」絢巡査長はそう告げ、診察室を出ていった。明野巡査も意思に礼を言ってから絢巡査長の後に続く。
「やっぱり、殺人事件なんですかね?」
「それを調べるのが私達の仕事。泉ちゃんも手伝ってね」
「勿論です」
「あ、しまった!」額をぴしゃっと叩いて何かを思い出す絢巡査長に「どうしたんですか?」と尋ねる明野巡査。
「あのライブに居たお客さん、帰っちゃったよね」
「あ、そう言えばそうですよね。私一人でも残っておけば良かったのかな」
「泉ちゃん。長さんに連絡してまだ間に合うかもしれない。私は一川さんに連絡するから」
「分かりました」
二人は自分のすべき仕事を行うのだった。
翌日、長四郎は剛士の素行調査を一旦、切り上げて事務所に戻った。
事務所のドアに鍵を挿すのだが、刺さらなかった。つまり、鍵が空いているという事であった。少し建付けの悪いドアを開けると、燐がソファーにドカッと座っていた。
「本当に仕事してるみたいね」
「まぁねぇ~ 何しに来たんたんだよ。アイドル女子高生」
「馬鹿にしてるでしょ?」
「滅相もない。ただ」
「ただ?」
「ただ、ラモちゃんのファンはきっとドMなんだろうなと思っただけ」
「私にファンなんて居るわけないでしょ」
「え、そうなの!? 知らなかったぁ~」すっとぼけた声を出す長四郎。
「絶対、馬鹿にしてる」
「そんな事より、何しに来たの?」
長四郎は本題を切り出した。
「昨日のお客さんのこと」
「ああ、亡くなったんだってな。泉ちゃんから聞いた」
「あんた、気にならないの?」
「何が?」
「意図的に殺されたそう思わない?」
「誰かが殺したっていうのか? じゃあ、犯人はあそこに居たバーテンだな」
「何でそうなるのよ」
「泉ちゃん曰く、毒で殺されたって言っていたから。あの状況で毒を盛るのが出来るのがドリンクを提供していたバーテンさんになるだろ? 馬鹿でも分かるわ」
「それを泉ちゃんに言ったの?」
長四郎は首を横に振って否定した。
「なんで、言わないの?」
「何でだろうね?」
「気になってるからでしょ?」
「気になる?」
「ポーカーフェイスを装っているかもだけど、あんた、事件の話をしている時、顔がにやけてるよ」
燐にそう言われた長四郎は大慌てで机の引き出しを開け手鏡を出して「それは、良くないなぁ~」ととぼけて見せる。
「バーテンが毒盛っているなら、他の客も倒れているでしょ? それがあのお客さんだけって気になるよ?」
「まさかとは思うんだけど、あのグループの子達に『私が事件を解決するっ!』とか言ったんじゃないだろうな」
「ピンポォ~ン」燐は人差し指を立て嬉しそうに答えた。
「何がピンポォ~ンだよ。俺は関わらないからな」
「とか言って、関わるくせに」
燐に見透かされた事を言われた長四郎はムッとする。
「俺は事情があって、今回の件には関われないから」
「大方、浮気調査引き受けて旦那が地下アイドルのライブに入り浸っていたっていう話でしょ? 大丈夫だよ」
「そこまで分かるのなら、ラモちゃんだけで事件を解決できるよ」
「バディものの作品で何を言っているの? 私と一緒に調べるわよ」
「え~」
斯くして、長四郎は燐と共に今回の事件の捜査をする事となった。