隠密-31
「女子高生探偵はなんて言ってたんです?」
車を運転する遊原巡査にそう問われた長四郎は、「もしかしたら、山戸霧子本人が接触してきたんじゃない?」と察しの良い答えを告げた。
「え!? 今すぐ行った方が良いじゃないんですか?」
「行かなくて良いよぉ~ ラモちゃんが追っているみたいだから」
「いやでも」
「それより泉ちゃんと合流しよう」
燐を探し回っている明野巡査から、連絡があったのだ。
自分を尾行している人間が居て怖いと。
男二人は、明野巡査が居るという新宿御苑に向かっていた。
「泉ちゃんを尾行してる奴が気になるな」
長四郎は明野巡査から送ってきた尾行者の写真を見ながら、指を噛む。
「探偵さん。汚いからおよしなさい」
「お前は、ファーか」
「ファー?」
「Zガンダムのヒロインでしょうが!」
「知りません。世代的にはSEEDとかですから」
「ぬぐっ!」
俺だって、世代はSEEDだよ。そう言いたかったが埒が明かないのでウンゴクックした。
「でも、そいつ何者何でしょうか?」
「スーツを来ているから、君らの同業か」
「悪の組織の人間って事ですか?」
「相手がショッカーだと面白いんだけどね」
「別に面白くないですよ。誰が仮面ライダーやるんです?」
「俺」
「探偵さん。年幾つですか?」
「28歳」
「28の大人がいう事じゃないでしょ」
「意外と手厳しいのね。遊原君。人生を楽しむコツは童心を忘れないことよ」
「そうですか」
遊原巡査の運転する車が新宿御苑近くのコインパーキングに入り駐車された。
「じゃ、行きますか!」という遊原巡査に「御意」と返事をする長四郎。
新宿御苑に入ってすぐの所に明野巡査は居た。
「泉ちゃん。大丈夫?」長四郎が少し心配そうに尋ねると「大丈夫です」と答えながら二人にスマホ見せる。
そこには“今、池を眺めているスーツの男です”と書かれていた。
「なら、良かった」と長四郎は言ってから「二人はそこで待機」と言い残して男に近づいて行く。
「どうです? 面白そうな物がありましたか?」長四郎は堂々と男に話しかけたが、男は返事をせずに立ち去ろうとする。
「待てよ。北条いや宮沢の差し金か?」
そう言うと、男の歩が止まった。
「その逆だ。我々は味方だ。君たちの護衛をある人物から仰せつかっている」と答えた。
「その人物に心当たりはあるので敢えて聞かないけど、北条の差し金についての特徴とか教えてくれませんかねぇ~」
「良いだろう。振り向くなよ。今、池の向こう側に居る人間。それが差し金た人物だ」
「偉く親切な方で助かりました」
長四郎はそう言いながら、自撮りする振りをしながら真の追跡魔を写真に収めた。
「最後に、君たちの仲間の女子高生。今、大変危険な状態にあるらしい。早く向かえ」
男はそれだけ告げ足早に去っていった。
「あの人、何だったんです?」遊原巡査が駆け寄ってきて聞いてきた。
「味方だって。んで、ラモちゃんが危ないらしい。行こうか」
「行くって何処にです?」明野巡査が質問した。
「それは、え~っと」
長四郎はGPSアプリを開き、燐の所在を確認する。
「品川方面だ」
「なんで、品川?」
「俺に聞くなよ」と遊原巡査はやれやれといった感じで明野巡査に答える。
「品川に急ごう!」
長四郎はそう言いながら二人を誘導する形で小走りに走り出した。
その瞬間に追跡魔の姿をその目で確かめたのだった。
危険が危ない状態の燐はというと、スウェット姿の女性を尾行して品川に来ていた。
「品川か・・・・・・」
燐はその身に危険が迫っているとも知らずに、女性の尾行を続ける。
女性は品川駅のコインロッカーで立ち止まった。
燐は一旦、通り過ぎてから女性がコインロッカーから何かを出す瞬間を撮影した瞬間、背中に冷たい金属が当たった感覚が走った。
「動くな。黙って付いてこい」
両サイドからフードの男達が燐の両腕を抱えて燐を拉致するのだった。