隠密-16
「燐ちゃん!」
明野巡査が言うのと同時に燐は「当たらなければ、どうという事は無い!」そう断言しダーツの矢を投げた。
放れた弾は燐の髪を掠めて通り、燐が投げたダーツの矢は男の銃砲に入り、銃は暴発した。
「ぐわぁ!!」
暴発した銃のせいで男は手から血を流しながら、地面に伏した。
「ひとまず、終わったみたいね」
燐はパンッパンッと手を叩きながら、明野巡査にそう言った。
「全く、いつもこういう事してるの?」
明野巡査は応援要請をするため、スマホを操作しながら燐に尋ねた。
「時たま」
「時たま、ねぇ~」
明野巡査の要請により近くの警察署から応援がすぐに来た。
トォォルンでラリッた客は次々と連行され、オラオラ系は半グレ連中であることが分かった。
そして、応援要請が出された事を聞きつけた遊原巡査と長四郎も現場へ臨場した。
「また、派手に暴れたなぁ~」遊原巡査は物がひっくり返りまくっている店内を見てそう感想を述べた。
「さしづめ、許されざるアバレってところな」
「何すか? それ?」
「あ、来た」燐が長四郎達を見つけ、明野巡査と共に近づいてきた。
「怪我無かった?」燐を気遣った言葉を送る遊原巡査に「あるわけないでしょ。それより、あんたら何してたの?」辛辣な対応かつ逆質問してくる燐。
「俺たちは、それはとても言い尽くせない程の有意義な事を。ねぇ?」
「そうだよ」遊原巡査は長四郎の言う通りだと言わんばかりにうんうんと頷く。
「怪しい」そう言ったのは、明野巡査であった。
「泉ちゃん。こいつの事、よく分かって来たじゃない」燐は賛辞の言葉を送る。
「ありがとう」
「いや、そうじゃなくて。ここ、潰してどうするの?」
「どうするって? 潰して、めでたしめでたし、でしょ?
「ラモちゃん。潰すにしても、もう少し情報収集してからでも良かったじゃん」
「だってよ。泉ちゃんは黙って見過ごす事できる?」
「正直言って、できない。あの時の燐ちゃんの行動は仕方ないかと・・・・・・」
「女子二人徒党を組むって訳か」
「別にそう言うわけじゃないですけど・・・・・・」
なんか、少し嫌な言い方をするな明野巡査はそう思った。
「なんにせよ、販売ルートを一つ潰したことは良い事なのでね。ね?」
遊原巡査が長四郎にこれ以上、何も言うなよ。という牽制をする。
「はいはい。で、ここを仕切っている頭目は?」渋々納得した素振りを見せる長四郎は質問した。
「取り調べしてみないと分かりません」と明野巡査はすぐに答えた。
「参ったね。どうも・・・・・・」
長四郎は頭をボリボリと掻いてから再び話始めた。
「ま、ここでうだうだ言っても仕方ないから、行くとこ行こうか」
四人は店を出て当初、行く予定だった麻薬取締部がある九段第三合同庁舎へと赴いた。
「トォォルンについてですか?」受付担当の職員がそんな麻薬知らないといった顔をする。
「じゃあ、山戸霧子さんはいらっしゃいますか?」
長四郎がそう尋ねると「山戸は今、謹慎処分中です」と後方から答えが返ってきた。
四人が振り返るとそこに立っていたのは、如何にも官僚みたいな感じの中年男性であった。
「申し遅れました。本部長を努めております、清栄です」
清栄は四人に自分の名刺を手渡した。
「トォォルンについてでしたよね? でしたら、私の部屋で」
清栄は四人を本部長室へと案内した。
「さ、隙に賭けてください」
四人は四人掛けのソファーに男女ペアで綺麗に並んで座った。
「トォォルンは我々も危惧しているのですよ。早く大臣の認可をもらわないと」
清栄から話始めた。
「清栄本部長。トォォルンの捜査はどこまで進んでいるのですか?」遊原巡査が質問した。
「正直言うと、芳しくない感じです」と清栄が答えたタイミングで人数分のカップを載せたお盆を持って来た女性職員が本部長室に入ってきた。
長四郎はその女性を見て、驚いた。
そうその女性こそ、長四郎に依頼してきた山戸霧子本人であったのだ。