隠密-12
「え~ こんなに!?」
手荷物検査で10袋のトォォルンが見つかり、燐は驚きの声を出す。
「そう。私もびっくりした」成美も同意するようにうんうんと頷く。
「で、これを持っていた生徒は今?」長四郎が質問すると「取り敢えず、今日は帰しました」と答えた。
「帰しちゃったんですか?」
明野巡査は何で帰したのみたいな顔をする。
「本当は、別室待機してもらいたかったんですけど。ちょっと、色々とありまして」
トォォルンが見つかって該当の生徒は生徒指導室へと集められたのだが、ここひと悶着が起った。生徒指導担当の教師がハッスルしすぎて生徒一人一人をぶん殴ってしまいしかも運悪く偶々、PTA関係で来ていた口うるさいで有名な保護者にその現場を目撃されたのだ。当然、校長の耳にも入り該当の生徒は謹慎という形で帰らせることになったのだ。
「以上のようなことがありまして・・・・・・」
「トホホな状況ですね」
「はい」遊原巡査の言葉に申し訳なさそうに答える。
「いや、先生のせいじゃないからね」と長四郎がすかさずフォローを入れる。
「そうだよ。生美ちゃんのせいじゃないし」
「燐ちゃん」成美は生徒からの労いの言葉を受け一番感動する。
「それで、先生。この薬を持っていた生徒の特徴は?」
「そうですね。優等生ばかりで私たち教師陣も驚いているんです」
「そうか。優等生か・・・・・・」
「何? 優等生だったら不服なの?」燐は腕を組みなおして長四郎にその真意を問う。
「いや、そうじゃなくて」
「だったら、何?」
「何? じゃなくてな・・・・・・」長四郎はそう言って窓の向こう側の景色に視線を移すのだった。
かくして、長四郎は燐達と別れて再び歌舞伎町へと向かった。
「それで、戻ってきたわけか?」
「そういう事」
金田一に現状の捜査状況を伝えていた。
「その優等生君達は、どこで薬を手に入れたんだ?」
「それは今、聞き込みに行ってもらっている」
「そうか。で、ここに舞い戻ってきた理由は?」
「ここで、薬を手に入れたんじゃないかな? そう思ってな」
「優等生君達が?」
「そう。トレンドなんだろ? この界隈だと」
「トレンド?」
「そうだよ。だって、あそこのキッズ達って素行不良の子もいるけど、意外とそういう子じゃない子達も屯してるってな」
「意外と物知りなんだな」
「そうですよ。とは言うもののね。あそこに居座っている子達の中に混じっている確率は相当低いと俺は考えている」
長四郎は東宝シネマズ横の広場でどんちゃん騒ぎをしている若者たちを見ながら、金田一にそう告げた。
「流石は名探偵。君の言う通りだ。あそこに居る子達の中に優等生みたいな子は圧倒的に少ない」
「じゃ、どこに居るの?」
「来てくれ」
二人は場所を移した。そこは、歌舞伎町の外れの方で立ちんぼが沢山立っている場所であった。
「ここに?」
「ああ、特に女の子限定だがな」
「この中に、優等生ちゃん達が?」
「おう。次、行くぞ」
今度は、歌舞伎町にある雑居ビルに来た。そのビルの六階にあるダーツバーへと長四郎と金田一は足を踏み入れる。
「ここ?」
「ああ、ここだ。ここはな、年齢確認が緩いんだ」
「今どきの高校生は大人びているからね」
「その通りだ」
「参ったね。どうも」長四郎はそう言って、受付を済ませてドリンクをバーカウンターで受け取りダーツを金田一と興じ始めた。
「そんで、ここは優等生君達が屯しているの?」
「そうだな。歌舞伎町を知る者達界隈では有名な場所だ!」
中心の的目掛けてダーツを投げる金田一。だが、思い切り逸れるダーツの矢。
「残念ぅ~ ニュータイプの俺に敵うと思うなよ。長四郎、投げまぁ~す!!」
長四郎の投げた矢もこれまた大きく外れるのだった。