隠密-11
「時間だ」
診察時間が終わるのを待っていた長四郎達四人は診察を終えた患者が出終えた所で診察室のドアをノックした。中から「はい」と返事が聞こえてきた。
「失礼します」長四郎が先陣を切って診察室に入る。
「どうも、薬物中毒の患者を担当している河西です」河西が自己紹介をした。
「警視庁捜査一課命捜班の遊原です。こちらは明野。事件解決に協力して頂いている探偵の熱海さんと羅猛さんです。今日は宜しくお願い致します」遊原巡査が四人の自己紹介をした。
「こちらこそ」
「それで、先生にお聞きしたい事が幾つかありましてね」長四郎が質問し始めた。
「はい。何でしょうか?」
「今回の被害者というか、容疑者というのか。ま、それはさておきで今回担ぎ込まれた患者の容態はどのような状態なのでしょうか?」
「まず、これを見てください」
河西はMRIの写真を四人に見せた。
「これが通常の脳です。そして、こちらが患者のMRIで撮影したものです」
河西は長四郎達から見て左側に正常な脳を撮影したもの、右隣に患者のMRI写真を比較しやすいように見せた。
「前頭葉部分が委縮してますね」長四郎がそう感想を述べた。
「その通りです。普通はこんなにも早くに症状が現れることはないんですけどね」
「やっぱり、そうですか」
「ですから、認知機能、記憶障害などの症状が出ています」
最初に、話を聞いた男子高校生は特にこの症状が顕著に出ていることそして、摂取していた期間も長かったはずである事を伝えられた。
今現在、分かっている情報はこれだけであったので、長四郎達は引き上げることにした。
次に向かうのは、燐が通う変蛇内高校であった。
その道中の車内で捜査会議が行われた。
「ねぇ、トォォルンってヤバくない?」燐がそう切り出した。
「ああ、ヤバいな」と長四郎は素っ気ない感じで答えた。
「でも、今まで何で捜査しなかったんだろ?」運転手を務める明野巡査がそう疑問をぶつけた。
「それは、相当な力が加わったって事だろ?」と遊原巡査が言う。
「薬の出所を追えれば、その力を持っている奴が分かるでしょ?」
「あ、生美ちゃんから返事来た」スマホを見ていた燐がそう言った。
「先生はなんて?」
「OKだって」
「何がOK何ですか?」
「遊原君、よくぞ聞いてくれた教育には欠かせない荷物チェックだ」
「まさか、全生徒の荷物検査するんですか!?」
「泉ちゃん。そんなに驚くことないでしょ。それが一番手っ取り早いんだから」
「ら、ラモちゃん・・・・・・」
「確かにラモちゃんの言う通りだな。てか、泉。凄い嫌そうな顔するじゃん」
「そんなことないよ」という明野巡査は明らかに動揺しており、車が横にスライドしていく。
「お、おい!!」遊原巡査が注意すると「ごめん。ごめん」と言いながら、車の進路を戻す。
「泉ちゃんの過去に何があったかは気になるが、それよりもトォォルンの出所を探らないと如何せん何も手が出ない」
「ねぇ、あんたはどんな依頼を受けた訳?」
「ラモちゃん、探偵にはな」
「守秘義務ってのがあるって言いたいんでしょ。知ってるし、依頼内容は言っても大丈夫でしょ?」
「言わないけど。これに付き合っていれば、俺の依頼を遂行できるんじゃないか? そうは考えている」
こいつのもったいぶる癖はいつになったら治るのか。燐はそう思った。
「探偵さんの依頼はともかくとして、短期間の摂取で脳があそこまで萎縮するってどんな化学成分なのか? 俺はそこが気になっているんだよな?」
「祐希って、化学得意なの?」
「少し好きなだけ」
「そうなんだ」遊原巡査の新たな一面を知って、少し嬉しくなる明野巡査。
「なんか、この二人。お似合いだと思わない?」
燐が小声で長四郎に耳打ちする。
「お二人さん。ラモちゃんがお似合いだってよ。付き合ったら?」
長四郎は大きな声で二人にそう言うと、動揺した明野巡査はまたハンドル操作を誤るのだった。