隠密-10
長四郎と燐、遊原巡査と明野巡査の四人は、覚醒剤の被害者であり覚醒剤使用の容疑者でもある高校生から話を聞くために都内の大学病院へ来ていた。
「こんにちは」
明野巡査が警察手帳を提示しながら、ぼぉ~っと正面を向いている男子高校生に声を掛ける。
「こんにちは」そう返事をするのだが、男子高校生の目は終始虚ろであった。
「君が摂取した覚醒剤について聞きたいんだけど」
「あ、はい」
「どこであの覚醒剤を手に入れたの?」
「覚えてません」
「そんなわけないでしょう」遊原巡査がすかさずツッコミを入れる。
「本当です・・・・・・」そう答え、明野巡査に向けていた視線を再び何もない真正面に向ける。長四郎は少し気になり、男子高校生の目の前に立った。
すると、長四郎を見てゲラゲラ笑い始める男子高校生を見て、「泉ちゃん。この子から話を聞くのは無理だ」と長四郎は悔しがるように言った。
だが、残りの三人は笑われたことに憤慨したんだ。そう思った。
「分かりました」
とは言うもののこのまま続けても良い成果は得られないそう思った明野巡査は切り上げる事を決めた。
病室を出て同じ症状で入院する女子高生の元へ向かおうとする燐、遊原巡査、明野巡査の三人の輪から長四郎は抜けて一人、ナースステーションへと向かった。
「あのすいません」ナースステーションに常駐している看護師に長四郎は声を掛けた。
「はい。何でしょうか?」看護師の職についてまだ一年も満たないであろう看護師が長四郎の応対をした。
「505号室の患者さんを担当されているお医者さんは、どちらに居るのでしょうか?」
「失礼ですが、患者さんとの関係は?」
「申し遅れました。私、こういう者です」長四郎は懐から一枚の名刺を取り出し、看護師に見せた。
「警察の方でしたか。今、確認します」
「ありがとうございます」
長四郎が渡した名刺は遊原巡査の机の上に乱雑に置かれていた名刺ケースの中から一枚拝借したものであった。
「先生なら、一回の内科エリアで診察中です」
「分かりました。では、診察時間が終えましたらで結構なので、お話をお聞きしたいのですが」
「はい。伝えておきます。担当医の名前は御存知ですか?」
「ええ、存じていますので、大丈夫ですよ」
「では、先生にはそのように伝えておきます」
「宜しくお願いします」
長四郎は看護師に礼を述べ、ナースステーションを後にすると居なくなった長四郎を探し回っていた燐と遭遇した。
「あ、居た!!」
「居て悪いのかよ。てか、病院で大きい声を出すなよな」
「ごめん。じゃなくて、来て!!」
燐は長四郎の腕を引っ張って薬物中毒の女子高生の病室へと連れて行かれる。
「何々?」長四郎が病室に入ると、「あ、来た」と明野巡査が声を出してから「もう一度、この人に話して」と女子高生に告げた。
「わ、私が薬を手に入れたのは近所の図書館で、トォォルンをくれたのは塾の友達です」
女子高生は薬を手に入れた経緯を話した。
「その塾の友達ってのは、中学時代の友達かな?」長四郎がそう質問すると女子高生はコクリと頷いて答えた。
「ありがとう。そのお友達の名前は聞かないけど。というか、聞かれた?」
今度は首を横に振って答えた。
「じゃ、これだけ聞いたら、俺たちは帰るから。そのお友達はどこの高校に通っているの?」
「変蛇内高校です」
「うちの高校じゃん!」燐が一番驚いてみせた。
「あの噂、本当だったんだ」女子高生がそうポツリと呟いた。
「噂って?」明野巡査がそう聞くと「変蛇内高校には殺人事件とかを解決する名探偵女子高生が居るっていう噂です」と答えた。
「あ、最後に一つだけ」部屋を出ようとしていた長四郎がドアの立ち止まると「その噂はウソだよ。事件を解決しているのは、この俺だから。じゃ、そういう事で」長四郎はそれだけ伝えると一足先に部屋を出ていった。
「あいつの事を信じちゃダメだかんね。はい、これ」
燐は自分で作った「ハイクラス女子高生名探偵 羅猛 燐+連絡先」が書かれた名刺を女子高生に渡した。
「困ったことがあれば、そこに連絡して。いつでも駆けつけるから。じゃ」
燐はそう言ってから、長四郎の後を追うのだった。