隠密-7
「はぁ~ 頭痒いなぁ~」
佐藤田警部補は、頭をボリボリ掻きながら警視庁の廊下を歩く。
背中を丸め覇気のない目で廊下を歩く佐藤田警部補をすれ違う警視庁職員たちは必ずといって、佐藤田警部補を見るのだ。
しかも、女性警察官からはクスクスっと笑われる始末。
「うん?」
あまりにも笑われるので佐藤田警部補は自分の身体を見て原因を探すと、ズボンのチャックが全開でかつそこからシャツが出ていたのだ。
「ついていないなぁ~」佐藤田警部補は少し恥ずかしそうにしながら、シャツをしまいチャックを閉めてから目的の会議室へと入室した。
「失礼します」
先に部屋に入っていった人間に佐藤田警部補はお辞儀をする。
「おう、来たか。さ、かけてくれ」
「はい」佐藤田警部補は目の前の席に座った。
「君に来てもらったのは」
「例の新型覚醒剤ですか?」
「そうだ。それで君にはこの覚醒剤の出所を捜査して欲しい」
「捜査と言われますが公の捜査の方が最適解ではないのでしょうか?」
「君の言う通りだがな、そういう訳にはいかないんだ」
「という事は、大きな圧力でまともな捜査ができないという事ですか?」
「ああ、恥ずかしい話だがな」目の前にいる警察庁の人間は佐藤田警部補の発言には容赦がないなといった顔をする。
「それで、その大きな圧力をかけてくる人物に心当たりは?」
「北条 恒」
「これまた厄介な相手ですね」
北条恒。日本政財界を牛耳る大物フィクサーとして知られるその界隈では有名な老人である。今なお、その権力は発揮されていると都市伝説界隈でよくやり玉に挙げられるので若い世代の人間からも認知されている人物なのだ。
「申し訳ないのだが、そういうわけで援護はできない」
「でしょうねぇ~ そう言って頂けると覚悟できます」
「ありがとう」
「では、失礼します」
佐藤田警部補は席を立つと、「あ、待ってくれ」と呼び止められる。
「何でしょう?」
「もし、もしだ。あの北条恒を逮捕出来たら、警察庁に戻ってこないか?」
「遠慮しておきます。今、若い刑事を育てるのが私の任務みたいなものですから。じゃ」
佐藤田警部補はそう告げ、部屋を後にした。
その頃、若い刑事二人と女子高生はというと・・・・・・
「え~ ウソォ~」驚いて見せる明野巡査に燐は「ホント、ホント」とそれが本当であることを告げる。
「驚いたなぁ~ あの探偵さんに彼女が居たなんて」
「でも、別れて結局、彼女はアメリカで結婚したんだって。金田一少年みたいにはいかないって話よ」
「ラモちゃん。金田一少年知っているの?」
「いや、世代じゃないんだけどさ。あいつと関わるようになってから、ジェネレーションギャップが酷くて勉強したの。あいつ、古いネタバンバン仕込んでくるから」
「そうなんだ」と答える明野巡査は話を合わすために勉強するとかどんだけ長四郎の事が好きなんだろうと思うが口には出さなかった。
「偉く賑やかじゃないか?」戻ってきた佐藤田警部補が会話に入ってきた。
「班長。話って何だったんすか?」遊原巡査が質問した。
「明野が聞いてきた例の覚醒剤の捜査してくれってさ」
「ラッキー」燐は指をパチンと鳴らして喜ぶと「何で喜んでいるの?」佐藤田警部補がそう質問し、明野巡査が都内各地で学生たちが薬物中毒で救急搬送される事件が起きたことを教えた。
「成程。そういう事ね」
「で、どこから捜査します?」嬉しそうな燐を見て如何に危ない状況で嬉々としている女子高生を見て、大人三人どう諭して良いものかと思うのだった。