隠密-6
「久々の再開を祝して、乾杯」
金田一は淡々とした物言いで、ハイボールの入ったジョッキを掲げる。
「乾杯」
長四郎もまた芋焼酎のロックが入ったグラスで乾杯を交わす。
「で、十数年ぶりの再開で来たと思えば、あぶない話だからな」
「十数年ぶりじゃない。二年ぶりだ。二年ぶり」長四郎は訂正しながら、焼酎を飲む。
「お、そうだったか・・・・・・」
「そうだったかじゃねぇよ。にしても、どうしてここなのかねぇ~」
長四郎は他の席で接客するキャバ嬢を見てニヤニヤする。そう二人は今、昼キャバクラに居た。
「嬉しいくせに」
「あ、分かる?」
とは言うものの、二人の席にキャバ嬢はいない。当然だ。とても聞かせる事のできないデリケートなお話をするためだ。
「最初に断っておくがな。トォォルンについては、そこまで詳しくないぞ」
「驚いたな。何でも知っているのが売りな男なのに。という事はだ。トォォルンはここ最近、出てきた新種って事か?」
「ここ最近出てきたというのは、違うな。正確には一年前だ」
「一年前? どういう事だ?」
「渡した冊子見ろ」
「お、おう」長四郎は冊子を捲ると、数枚の写真が添付されていた。
その写真は、若い男女たちがゴミ捨て場に泡を噴いて倒れている写真であった。
「酷いな。これ」
「ああ、俺もそう思う。その写真が始まりだ。警察はオーバードーズの自殺で処理したんだが、これは真っ赤な噓なんだ」
「はい。俺の妄想を言っても宜しいでしょうか?」挙手しながら、発言を乞う長四郎。
「言ってみなさい」金田一は先生みたいな口調で長四郎の発言を許可する。
「ここに映っている子達は、トォォルンの治験者にさせられたそういう事でしょうか?」
「相も変わらず、勘のいい奴だな」長四郎に拍手を送る金田一。
「ありがとう。そんでさ、この子らは流行りのトー横キッズなの?」
「ああ」出された乾き物を口に入れながら金田一は答えた。
「んで、お次は」長四郎は冊子をめくって次のページを見る。
「お次は、そのトォォルンをばら撒いているであろう人間を映したものだ」
「解説ありがとう。驚いたなぁ~ どこをどう見たって行政の人間だろ」
若い男女たちに小袋に入ったトォォルンを手渡すかっちりとしたスーツを着た男。
「驚く事はそこじゃないんだよ。よく見ろ。何が足りない?」金田一の問いに長四郎は写真目を凝らしてよく見てから口を開いた。
「金だな」
「そう。金だ。金の受け渡しがないんだ」
「流行りの電子マネー決済じゃないの?」
「俺もそう思ったんんだが、違ったんだよ。無償で薬をばら撒いているらしい」
「ヤバくねぇか」
「ああ、ヤバい。この町を仕切っている半グレ、ヤクザに海外マフィア、シンジケートまぁ、方々に敵を作っている最中だ」
「それだけの敵を相手にできるのが、今回の敵か。強敵だな」
「でも、燃えるんだろ?」
「ああ、相手がデカければデカい程にな」
長四郎は焼酎ロックを流し込んで気合いを入れるのであった。
その頃、燐は警視庁命捜班・第二班の部屋を訪れていた。
「ラモちゃん。どうしたの?」明野巡査は嬉しそうに声を掛けながら、燐が手土産に持って来たドーナツが入った箱を受け取る。
「いやね、薬物乱用の生徒がうちの高校から出ちゃってさ。それで、一川さんとこに話をしに行ったら、佐藤田さんの方が詳しいからって言うからこっちに来たの」
明野巡査と遊原巡査は互いの顔を見て、ぷっと噴き出す。
「何がおかしいの?」燐は眉をあげて明野巡査に詰め寄る。
「ごめん。ごめん。いやぁ~ 似た者同士なんだなと思って」
「どういう事?」
「ラモちゃんと同じ目的でここに来たんだよ。探偵さんが」遊原巡査は説明した。
「あいつが? なんで?」
「私たちもはぐらかされてね。よく分からないんだ」
「そうなんだ。佐藤田さんは?」
「班長は今、上に呼び出されているから戻ってくるまで待ってな」
遊原巡査は燐にそう言って、ノートパソコンに視線を戻した。
「私、お茶淹れてくるから待ってて」
「あ、うん」
燐は長四郎にも事件の捜査を手伝ってもらおうと決めた。