誤報-14
「本当にすいません」
局の編成局長がへこへこしながら、玉原に頭を下げる。
「いえ、報道に携わる者として当然の事です。いち早く真実を伝えねばなりません」
「はい。私共も同じ考えです」
「玉ぁ~原ぁ~さん」
背後から呼ばれたので、玉原と編成局長は声の方へ振り返る。
「なんだね? 君は!?」編成局長は怒り声で長四郎に話しかけると「待ってください。彼は事件を解決に導く探偵ですよ」と編成局長に話しかける。
「探偵? そんな」そんなドラマみたいな話と言いたげな顔をする。
「ま、言いたいことは分かるので、それはさておいて。なんで、戻ってこられたんですか?」
長四郎は早々に質問をした。
「いや、今朝の事件で私が犯人ではないかというデマが広げられてしまいました。その誤解を解くと共に事件の真相をいち早く報道しようとこの編成局長とお話ししましてね。それで、戻って来たんですよ」
「左様ですか。それは、頑張ってください」
聞いた俺が馬鹿だったと言わんばかりの顔をして、長四郎はその場を去った。
次に向かったのは、燐達が居る倉庫であった。
「あ、来た!」
「来たじゃないよ。何してんの」
「事件の捜査に決まっているでしょ? バカなの?」
燐はあんた、バカぁ~のポーズで長四郎を罵る。
「へいへい。あたすは、おバカさんでございますよ」
「ムカつく」動じない長四郎に燐は地団駄を踏む。
「そのおバカさんは今まで何しとったと?」
「犯人捜しですよ」の後にハゲと言いたかったが、敢えて言わず心に留めた。
「それで犯人は見つかったんですか?」
「絢ちゃん。そう簡単に見つかれば苦労しないよ」
「そうですよね」絢巡査長はムカつく感情をグッと堪えて愛想笑いしながら答える。
「ねぇ、鑑識作業は終わったの?」
「大方は終わったと思いますけど」
「さようでございますか」
長四郎はそのまま倉庫に入っていった。
「え、何々?」
慌てて燐は長四郎の後を追って倉庫に入ると、長四郎は分け目も降らずに非常口へ向かって歩を進めていた。
小走りをしながら長四郎に追いついた燐は「なんか、掴んだんでしょ?」そう問いかけると「掴んだ。掴んだ」適当に答える。
非常口の扉を開けて、そのまま非常階段の方へ出た。勿論、燐もそれに続く。
「なんで、付いて来るの?」
「助手を監視するのも、名探偵の役目だから」
「その割には犯人を見つけらんないのね」
長四郎が言った瞬間に、燐の拳が長四郎の頬に叩きつけられる。
「ふげっ!!」
変な声を出しながら、非常階段から転げ落ちるのだった。
「痛たたたた」
痛む背中を擦りながら長四郎は、非常階段を降りる。
倉庫はテレビ局の2階にあり、すぐに一階へと降りる事ができた。
「これだったら、殺してすぐに逃げられるね」
「逃げられる。か・・・・・・」
目の前に広がる車両が出入りするロータリーを見る。
「犯人はテレビ局を出ていったかもよ」
「流石は、名探偵。鋭い推理だ」
「馬鹿にしてるでしょ?」
「うん」
「うん?」
「馬鹿にしてないですよ」取り繕う長四郎は燐から繰り出される攻撃に身構える。
「何、身構えてんの? 暴力少女じゃないんですけど。私」
どの口が言うんだと心の中で思いながら、長四郎はここから犯人が倉庫に入ったのは間違いなく、犯行後ここから逃亡したのか? しかし、それだとかなり目立つ行為ではある。何故なら、今もそうだがテレビ局へ訪ねてくる車がひっきりなしで出たり入ったりしているからだ。
「犯人は複数犯なのかな?」
「・・・・・・」
「聞いてますかぁ~」長四郎の耳を引っ張ってそう言うと「聞いてます。聞いてます」と長四郎は顔を引きつらせ答える。
「複数犯でいいと思います」燐の推理を肯定する発言をし、気を良くした燐は長四郎の背中をバンッと叩き「じゃあ、共犯を探すよ!!」意気揚々にテレビ局へと戻っていく。
痛む背中を叩かれ悶絶する長四郎を置いて。