誤報-10
長四郎が向かった先はテレビ局内に出向している制作会社の事業所があるフロアを訪れた。コピーしてもらった番組制作会社の名前を確認し、掲げられている社名の書いた看板のフロアに向かった。
「すいません」デスクで作業している社員に話しかけた。
「はい。何でしょう?」
「突然の質問で申し訳ないのですが、この三澤翔太さんについてお聞かせ願えないでしょうか?」
「それは、構いませんが貴方は?」
「申し遅れました。私、こういう者です」
長四郎にしては珍しく正直な名刺を渡した。
「私立探偵さん?」
「ええ、そうです。この局で起きた事件の捜査をしていましてね」
「はぁ」そんなドラマみたいな事があるのかといった顔をする社員。
「ドラマじゃないんだからとお思いになったでしょ?」
「はい」社員は素直に答えた。
「それで、三澤翔太さんの事ですが・・・・・・」
「ああ、そうでしたね。すいません」と謝罪してから始めた「彼は短期の社員でしてね。僕もよく分からないんですよ」と答えた。
長四郎は心の中で盛大な舌打ちをしてから、次の質問をした。
「では、三原翔太さんに詳しい社員の方はこの局に居ますかね?」
「いやぁ~ どうでしょうかねぇ~」
「そうですか」
これ以上、こいつから聞き取れるものはない。そう察した長四郎は引き上げる事にした。
「どうも、ありがとうございました」
礼を言い、その場を去る長四郎は追っかけてきた燐と絢巡査長の二人に出くわす。
「ラモちゃん。どうしたの?」
「どうしたのじゃないし、成果あったの?」
「成果があれば、もう少しお話を聞けたんだけどな」
「ダメだったって事ですね?」絢巡査長にそう言われた長四郎はコクリと頷く。
「マジで?」燐にそう問われた長四郎は「マジで」と答えた。
「成果なしって事は、振り出しに近い状態になったそういう事でしょうか?」
「絢ちゃん、希望を捨ててはいけないよ」
「そんな深刻な話じゃないでしょ?」
「うん。そんな話じゃないね。仕方ない、遊原君の仕事を増やそうか」
「了解です」絢巡査長は長四郎の意図を理解し、すぐに遊原巡査に連絡した。
「それで、成果のない名探偵の次の一手を聞きたいな」
「ラモちゃん。そんな事を言われてもねぇ~」
「じゃあ、次は私のターンで良いかしら?」
「どうぞ」
ドヤ顔をする燐に活躍の場を譲るのだった。
その頃、一人捜査をしている遊原巡査はというと・・・・・・
「はぁ~」
パトカーを走らせながら溜息をつく遊原巡査。
彼が何故、溜息をつくのか。話は一時間前に遡る。
一川警部の要請で出動した遊原巡査が最初に向かったのは、被害者の家族が居る所轄署であった。
そこで、被害者の身辺調査をしようと考えた訳だ。
だが、それが行けなかった被害者遺族の逆鱗に触れビンタを浴びせられる始末で、話を聞ける騒ぎではなかった。
「あ、痛たたたたた」
運転しながら、引っ搔き傷のある頬を擦る遊原巡査は次の場所へと車を走らせた。
次に向かった場所は、玉原が起こした炎上事件の被害者、出雲園を当たることにした。