誤報-9
「死体が詰め込まれたキャリーケースは小道具の廣宮さんが用意されたのでしょうか?」
長四郎の問いに廣宮は首を横に振り、「用意したのは私ですが、きっかけは違います」と否定した。
「では、どの方が?」
「ええっと、アンケートを取りに行ったスタッフの子で名前までは・・・・・・」
その場に居た全員が、そいつが犯人じゃないのかとそう思った。
「そうですか。番組スタッフ名簿みたいのってありますか?」
「台本に書いてあったかと」龍頭が答えた。
「ああ、そこにならスタッフの名前が書かれています」と鵜崎が言う。
「それは、プロデューサーの志村さんに頼めば貰えるのでしょうか?」
「それには及ばないと思います。この方に台本のコピーを」
鵜崎が龍頭に指示を出して、台本のコピーを取らせに向かわせた。
「鵜崎さん、廣宮さん。玉原さんの炎上事件の際に番組制作を携わっていたんですか?」ここで、燐が質問した。
「炎上事件ですか? いつ頃の事でしょうか?」と困惑気味に鵜崎が質問で返した。
「いつの事?」燐が長四郎に聞くと「あ、待って調べるから」スマホを取り出して検索を始める長四郎。
「あの、昔の炎上事件が今回の事件と関係があるのですか?」廣宮は興味があるといった顔で聞いてきた。
「可能性あるってだけの事です。あのキャリーケースはどのような経緯で選ばれたとか分かります?」炎上事件の詳細が分かる記事を検索しながら、長四郎は質問をした。
「ええと、収録前に行ったアンケートで答えてもらった物を紹介する形となりました」
「聞き取りとか行いました?」
「そうですね。あのキャリケースは玉原さんの私物ですから。お借りしても良いかの確認もその時にさせて頂きました」
「それで、玉原さんはOKを出したんですか?」
「ええ、まぁ」それまで答えていた廣宮に変わって鵜崎が答えた。
「お待たせしました。台本のコピーです」
会議室に戻ってきた龍頭が刷ってきた台本のコピーを長四郎に渡した。
「ありがとうございます。もう結構ですよ。ありがとうございました」
長四郎は三人に礼を言って、退室してもらった。
退室したのを確認してから、燐が口を開いた。
「やっぱり、ここに居ないスタッフが犯人なのかな?」
「どうだろうな?」長四郎は台本のスタッフ欄に目を通しながら返事をする。
「いや、犯人でしょ」
「ラモちゃん、そう決めつけるのはまだ早いよ。でも、私も一番容疑が濃い人間だと思うけど」絢巡査長はそう告げた。
「あたしも絢ちゃんの意見に同意するばい」
「一川さん。遊原君から連絡は?」
「ないよ。絶賛、調べてくれている最中やと思うけど。催促しようか?」
「いや、その必要はないですよ。多分、この人かな?」
長四郎はジャケットの内ポケットからペンを取り出して、該当の名前に丸印をつけた。
「三澤 翔太?」燐が名前を読み上げた。
「遊原君にもこの名前を教えてあげてください」
「はいよ」一川警部はそう返事し、会議室を出ようとするが「あ、待ってください。一川さん」と呼び止める。
「なんね?」
「この制作会社も調べてもらうようお願い出来ますか?」
長四郎は番組制作会社の欄を一川警部に指して教えると「了解。伝えておくばい」そう告げ会議室を出た。
「長さん。三澤翔太って本名だと思いますか?」
「絢ちゃん。俺もそう思っていたところなんだよ。これ見て」
先程、検索していた過去の炎上事件の記事を絢巡査長と燐に見せた。
「出雲 園。この人が冤罪をかけられた人?」
「そう」
「しかも、女性だよね」
「うん」
「三澤翔太とは程遠い名前と性ですね」
「気になるよなぁ~ モヤモヤするねぇ~」長四郎は眉を潜めながら考え込む。
「ね、この制作会社の人、ここに居ないのかな?」
「ラモちゃん!」長四郎は急に椅子から立ち上がり、燐の肩をガッと掴み「メチャクチャ、良い事を言った! でかした!!」そう言って嬉しそうに会議室を出ていった。
「なんなの、あいつ」
「ラモちゃん。追うよ!!」
「御意!!!」
燐と絢巡査長は大急ぎで長四郎の後を追いかけた。