誤報-3
燐に連れられて来た場所は収録現場に指示を送る副調整室であった。
「さ、捜査を始めるよ」燐は気合いを入れるように顔をパンパンっと叩いて気合いを入れる。
「頑張れぇ~」長四郎は気だるそうに燐を応援する。
「あんたも頑張るのよ!」
燐は長四郎の尻をひっ叩いて、喝を入れる。
副調整室の端に固まってひそひそと話し込むスタッフの元へ近づいて行く燐と付き添いの長四郎。
「あのぉ~ すいません」燐が番組スタッフの一人に声をかけた。
「はい、なんでしょう?」
「この番組の責任者にお話を聞きたいな。なんて」
燐は愛想笑いを浮かべながら用件を伝えると、番組スタッフに指示を出す男に声をかけ燐と話す機会を設けてくれた。
「私、この番組のプロデューサーを努めております泉谷と申します」
泉谷は燐と長四郎自身の名刺を渡して「で、お話をお聞きしたいとのことですよね?」と本題を切り出す。
「はい。単刀直入に聞きます。被害者の方を恨んでいるといった方は居ましたか?」
燐はずけずけとドストレートな質問をぶつけた。横でそれを聞いていた長四郎は心の中で拍手をする。
「やっぱり、ネットニュースの件ですか・・・・・・」と泉谷は下を向いてから続きを話し出した。
「あれ? 本当何ですか?」長四郎はゴシップネタ大好きみたいな顔で質問した。
「ちょっと!」燐が窘めると「本当です」と重苦しく泉谷が答えた。
「本当だってよ」何故か、嬉しそうな長四郎は肩を揺らしながら燐に告げる。
「何、嬉しそうにしてんのよ!」長四郎の後頭部をスパンっと叩く燐。
「あなた達、本当に刑事さんなんですか?」
泉谷はこんなふざけたやり取りをする長四郎と燐を見て、素直に思った事を聞いた。
「よく聞いてくれました! 私たちは刑事ではありません!! 私たちいや私は数々の事件を解決してきた名探偵の羅猛燐ですっ!!! どうです? ドラマ化しません?」
鼻をふんふんさせ終いには、自身を売り込む燐の横で呆れかえる長四郎。
「はぁ」
ここで何と返事をすれば良いのが最適解なのか分からない泉谷は困った顔をする。
「こいつの戯言はほっといてください」と前置きし「殺されたプロデューサーさんは世間を騒がすゴシップネタの渦中の人です。謹慎とかの処分になっていなかったんですか?」と長四郎は今、思う一番の疑問を泉谷にした。
「処分はされていないです。が」
「が?」と長四郎はすぐに復唱する。
「彼は休暇を取っていました。これは社に確認して頂ければウラは取れるはずです」
「そうですか。では、次に」と続けようとする長四郎に「待ってください」と泉谷のストップがかかった。
「何です?」
「探偵さんが事件の捜査をして良いんですか?」泉谷はごく当たり前な質問をした。
「う~ん。成り行き上、捜査しなきゃいけないんですよ。多分・・・・・・」
長四郎は察してみたいな顔で隣に座る燐を見る。泉谷も分かったようで、長四郎に同情する。
「それで、あのキャリーケースはいつ入荷されたんですか?」
「あれは、いつだったかな? ごめんなさい。調べたらお教えします」
「ありがとうございます」長四郎はお辞儀をして礼を述べる。
「では、最後に一つだけ」長四郎は人差し指を立て「被害者の方を恨んでいる人物に心当たりは?」と尋ねる。
「正直言って、多すぎて。何とも・・・・・・」
泉谷はゴシップネタの件で世間から冷たい目を向けられている被害者の事を考えると、容疑者を絞るのは難しい。長四郎はこれ以上、泉谷から聞ける事は無いと判断し礼を告げそそくさとその場を後にした。