返金-12
長四郎は再びマンションの前に立ち、監視できそうな場所を探し始める。
すると、一台のワンボックスカーがこちらに近づいてきた。
ワンボックスカーの運転手に気づかれないように、歩行者を装いマンションから離れて近くの電柱へと身を隠し様子を伺う。
ワンボックスカーはマンションの前で停車し、自動のスライドドアが開き中からサングラスをかけたピシャリと見覚えのある女性が降りてマンションへと入っていく。
当然、長四郎はその様子を写真に納める。
「俺、週刊誌記者にでもなろうかな?」
そう言いながら、先程撮った写真を確認する。
「ああ、この子。見た事あると思ったら、女優じゃん」
一人納得しながら、本当に週刊誌にこの写真を売り込もうかと本気で考えているところ、電話がかかってきた。
「あ、はい。もしもし」
「長さん。今朝はどうも」電話の相手は、一川警部であった。
「どうも。どうしたんすか?」
「いや、例の詐欺会社を追っているんかなと思ってね。ただの確認ばい」
「ま、追っているのは変わりないですけど」
「ああ、そ。なら、良かった。ちょっと、お話ししたい事があるけん。少しばっかし、お時間をいただきたいんやけど」
「構いませんよ。落ち合う場所は?」
「じゃあ、ヒマラでどうやろ」
「OK. わかりました」
こうして、一川警部と長四郎行きつけの居酒屋ヒマラで落ち合う事になった。
長四郎は店に入ると、一川警部は先に来ており一杯ひっかけていた。
「どうも」長四郎はそう挨拶しながら、席に座る。
「お疲れ様」
「生、一つ」
注文を取りに来た店員にそう告げた長四郎は本題に入る。
「で、俺を呼び出した訳をお聞きしましょうか」
「お、早速、話を聞いてくれるとは嬉しかぁ〜 実は、あたしの組対の知り合いから話を聞いたんやけど。長さん達が捜査しとる会社ね。どうも、アンダーカバーを潜り込ませとるらしいったい」
「ほぉ〜 アンダーカバーを潜り込ませるって事は、尻尾を出さない相手って訳ですね」
長四郎が言うと、生ビールを飲みながら一川警部は相槌を打つ。
「はい。生ビールでぇ〜す」
店員が生ビールの入ったジョッキをテーブルに置き去っていく。
長四郎はすぐさま、ジョッキを手に取り口に流し込む。
「あ〜 美味い!!」
夜とはいえ、夏の暑さは酷なもので長四郎の喉の渇きを一気に癒す。
「それで、アンダーカバーと接触するように的な話ですか?」
「それなんやけど、どうもそのアンダーカバーの行方が分からんらしいったい」
「成程。行方不明ですか。そのアンダーカバーの写真ってありますか?」
「勿論。ただ、変装しているからすぐに分かるかねぇ〜」
「ま、もらっておけば困らないかなと」
「そうね。渡しとくけん。気にかけといて」
「OK. 分かりました」
スマホに送られてきた写真を確認し、長四郎は店を出て行くのだった。