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結成-4

 一川警部が運転する覆面パトカーで依頼していた過去三件分の捜査資料を読む長四郎。


 最初の事件は、4年前の年末に起きた。

 私立芸春高等学校2年金剛 彩(こんごう あや)が空き教室で、首を吊っているのが発見された。

 警察は他殺の可能性はなしとのことで、自殺として処理した。

 学校の対応は、いじめではく家庭環境による自殺として保護者達に説明し事件は幕を閉じた。


 次の事件は、その翌年の秋に起きた。

 今度は、1年生の川東 太一(かわとう たいち)が校内のプールで溺死した状態で発見される。

 今度もまた他殺の痕跡無しで事故として処理される所であったが、川東太一から睡眠薬の成分が検出され再び他殺として捜査を始めた矢先、学校側の証言で家庭環境が原因にる自殺として判断された後、自殺事件は処理された。


 三回目の事件は、昨年の夏に起こった。

 1年の西谷 笑(にしたに えみ)がバスケ部の部室で硫化水素中毒による自殺であった。

 材料は、学校の理科室から調達したようで、これも家庭環境が原因での自殺として事件の捜査は終了した。


 いずれにせよ、怪しいこと、この上ない事件ではある。


 しかも、最初の事件以外はニュースにすらなっていない。


 余程の金が動いたのか。


 そんなことはさておき、四件の事件が起きるまでほっておくのか。


 二回目の事件までは不幸の立て続けとして片づけられるが、三回目の事件は明らかに他殺としか思えないのに・・・・・・


「で、過去三件の捜査資料見てどう?」

 一川警部が感想を求めてくる。


「そうですね。一番の疑わしき所は全て自殺の原因が家庭環境って言うのが引っ掛かりますね」


「あ~ それね。まだウラを取っておらんのよね」


「そうですか。資料によると家庭環境の原因としか記載されてないのも不思議ですね」


「まぁ、家庭環境って個人情報に当たるやない。だから、詳しいことは書けんとよ」


「成程」


「取り敢えず、そこらへんも学校に聞こうやない」


「はい」

 俺と一川警部が乗る覆面パトカーは学校の校門を潜るのであった。


 一川警部がアポを取っていたのか着くや否や校長が直々に出迎えてきた。


「お待ちしておりました。私、校長の田中山(たなかやま)と申します」そう言って、二人に名刺を渡してきた。


「これは、ご丁寧にどうも。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。

私、警視庁捜査一課刑事の一川と申します」

 一川警部に続いて名刺を渡す長四郎。


 二人の名刺を受けとる田中山校長は「熱海さんは、科捜研の方ですか?」と驚いて見せる。


「ええ、そうです。こう見えて科学捜査研究所の研究員です」


 この偽名刺は、一川警部が用意した物であった。


 最初、渡されたときはびっくりしたが、探偵が事件の捜査に参加しているのは警察としてもあまり宜しくないのだろう。


 と言っても、対象の身辺調査をする際には身分を偽る場合もあるのだが、公僕として偽ったのは初めてのことだったので新鮮な気分でもあるのはここだけの話。


「私も初めて科捜研の人にお会いしたので、舞い上がってしまい申し訳ございません。

では、ご案内します」


 校長に連れられ校長室へと通された二人。



 各々、席に着くと同時に田中山校長が口火を切る。

「今回の事件でのお問い合わせとお伺いしているのですが、何か不可解なことでもありましたか? 担当してくれた所轄署の刑事さんには納得してもらったのですが」

「まぁ、硬くならんといてください。あたしは、お守なので。

彼が御校で自殺事件が立て続けで発生しているので、その調査がしたいと申しましてね」


「はぁ」

 田中山校長は気のない返事をしつつ、何故、解決した事件を蒸し返すのかと思う。


「混乱するのは、無理ありません。私が科捜研で行っている研究に欠かせないことでして。

ご理解ください」

 咄嗟の噓で何とか誤魔化そうとする長四郎。


「差し支えなければどのような研究を?」


 その問いの解答に困り一川警部を見るが、我関せずで出された緑茶をすすっている。


 このハゲ、助けろよ。と心の中で思いつつ取り敢えず、出まかせを喋る。


「口外はしてほしくないのですが・・・・・・」


「お約束します」身を乗り出して話を聞こうとする田中山校長。


「事件をデータベース化して・・・・・・

そう、早い話がビックデータ解析するためのデータ集めです」

 長四郎はドヤ顔で田中山校長に雑な説明を行う。


「いやぁ~ 警察の捜査方法も変わりつつあるんですね」


「ええ、まぁ」愛想笑いでごまかす長四郎。


「それでですね。データ集めの為に、校内を散策させて欲しいんですけど」


 一川警部が何食わぬ顔で校内の調査を申し込む。


「それなら、構いません。只、授業の邪魔をするようなことはしないでください」


「分かりました。熱海君、何か校長に聞きたいことは?」


 長四郎は、ここで全ての事件の原因とされる家庭環境による問題について問えという一川警部の意図を理解する。


「あります。過去三件の事件の原因が家庭環境による問題とのことですが。

どのような問題なのでしょうか?」


「それは・・・・・・」

 暫くの沈黙の後、田中山校長は答える。


「個人情報なのでお答えしかねます。申し訳ございません」


「そうですか。ありがとうございました」


 この調査については、被害者遺族から聞くしかないと思う長四郎の横に座る一川警部もそれを察したのか余計な仕事が増えたとげんなりしている。


「では、始めさせて頂きます。行きますよ、一川警部」


「終わり次第こちらに寄らせて頂きます。失礼します」

 校長室を出ると燐が廊下で待っていた。


「事件現場、行くよ」

 そう言う燐に大人しくついていく二人の大人達。


 長四郎と一川警部が去った事を確認すると田中山校長は電話を掛ける。


 相手が電話に出たと同時に話始める。


「おい! どういうことだ! 刑事と科捜研の男が事件を調べに来たぞ!!」

 激昂し、かつ狼狽しながら通話相手に伝えると、これからの行動の指示を受けるのだった。

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