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異人-22

 津崎逮捕から1週間後。

 ミシェルがアメリカへ帰国する時がきた。

 長四郎と燐は見送る為に、羽田空港へと来ていた。

「見送りまでしてくれるなんて。悪いわね」ミシェルは2人に感謝の意を述べる。

「いえ、こちらこそ。お役に立てなくて」

 燐がそう言うのに対して、長四郎はミシェルの方ではなく空港ロビーを歩くキャビンアテンダントを見ていた。

「やっぱCAさんは奇麗だな。うん、綺麗だ」そう独り言を呟くと、「変態」の言葉と共に、燐に耳たぶを思いっきり引っ張られる。

 パシャっ

 その様子を写真に納めるミシェル。

「ちょっと、何撮っているんですか!」

「ごめん。ごめん。これ、日本に来ての依頼だから」

「依頼?」

 まるで意味が分からんぞ。顔の燐に対して、長四郎はやられたといった顔をする。

「こっちの話だから気にしないで」

「いや、気になりますよ」

「ま、良いじゃないの。当分、日本に来れないんだから」

「そうだけど」

 ミシェルは道前の部屋への不法侵入の罪で名目上、強制送還という形で国に帰ることになったのだ。

「じゃ、私行くね」

「はい。お達者で」燐はミシェルに握手を求めるとミシェルは笑顔でそれに答える。

「Bye. 長四郎、燐」

「Bye.」

 燐も流暢な英語で返事をし、ミシェルが保安検査場に入って行こうとした時、「あ、ミシェル」と呼び止める長四郎。

「何? 引き留める気なの。だとしたら、無駄よ」

「んなわけないだろ。これ、持って行けよ」

 長四郎が差し出しだしたのは、道前の部屋から回収した1冊ノート。

「これは?」

「道前の部屋から回収したノート。ホントはいけないんだろうけど、警察からの報酬ってことで、拝借してきた」

「長四郎も大胆な事するのね」

「ミシェルには、言われたくない」

「そう」

「ここに書いてあることは胸糞悪いことだらけだが、ま、読んでみたら分かるよ」

「あ、そ。機内で読ませて貰うわ」

 ミシェルはノートを受け取り、長四郎の頬にKISSをする。

 それを見た燐は「ひゃっ」と声を上げる。

「ああ、それとさ、あいつに「俺は元気にやってから、旦那と子供と幸せに暮らせよ」って言っといてくれ」

 ミシェルは黙ったまま頷いて、保安検査場へと入って行った。

 そして、長四郎と燐はミシェルの乗る飛行機を見送る為、展望デッキへ移動した。

「あいつって、誰の事?」燐は飛び立つ飛行機を見ながら率直な疑問をぶつけた。

「元カノ」

「あんた、彼女居たの?」

「そら、居るよ」

「へぇ~つらい恋を乗り越えて今に至るんだ」

「やかましいわ。青春真っ盛りの癖に彼氏が居ない女がよく言うよ」

「かっちーん」

 燐は指をぽきぽきと鳴らしながら、長四郎にゆっくりと近づいていく。

「あ、おい。そろそろミシェルの飛行機が飛び立つぞ」

「そんな事、私が知るか!」

 燐は長四郎に襲い掛かるのであった。

 飛行機が飛び立ってから1時間が経過した頃、ミシェルは長四郎から貰ったノートに目を通し始める。

 そこには、ミシェルの父を殺した際の事が事細かに書かれていた。

 ミシェルは湧き上がる怒りを抑えながら読んでいく。最後の方に父のトム・ガルシアの遺言が書かれていた。

「ミシェル。今までありがとう。未来永劫、お前の事を愛している。勿論、妻も」

 その一文を読んだミシェルの目から、大粒の涙が落ちる。

「パパのバカ」

 そうぽつりとつ呟くミシェルを包み込むように、窓から綺麗な夕陽の光が照らすのであった。


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