結成-2
19時、新橋にあるヒマラという店名の居酒屋に入店する長四郎。
「いらっしゃいませ!!」
そう言って、出迎えてきたのは羅猛燐その人であった。
「あ、あんた!」
「客に向かってあんたはないでしょ? 待ち合わせなんだけど」
「ここば~い!」
陽気に手を振り自分が居る事をアピールする一川警部。
10年前も薄い頭だったが、今ではスキンヘッドで頭が光り輝いて眩しかった。
その一川警部の姿を見て、時が経ったなと感じる。
「じゃあ、どうぞ」
燐は店員らしく長四郎を一川警部が座る四人席へと案内する。
「取り敢えず、生ビール二つねぇ~」
「はい、生二丁!!!!」
燐は注文を通して、ホールの業務に戻る。
「早速なんだけど、これに目を通してくれる?」
一川警部はカバンから一つの冊子を出して長四郎に渡す。
「はい」
長四郎は冊子の中身を検め始めた。
冊子の内容は、私立芸春高等学校の自殺事件に関しての捜査資料であった。
燐が依頼してきた事件の他に三件の自殺事件についても記載されていた。
過去に自殺事件があっても不思議ではないが、この4年立て続けて自殺事件が起きている。
それも全ての事件が、校内で発生している。
多分、一川警部は連続殺人でも疑っているのではないのだろうか。
でも、尻尾すら掴めないので10年振りに連絡を寄越したようだ。
全く、俺が金田一少年みたいに会社勤めだったらどうしていたのか。
そんな事を頭の片隅に追いやり、話し始める。
「で、この事件に手を貸せというわけですか」
「ご名答。といっても、探偵の業務が忙しいんやったら別やけど」
「丁度、一仕事終えて次の依頼を待っている最中ですから」
「だったら、私の依頼引き受けなさいよ。はい、生二丁!」
燐はテーブルに生ビールが入ったグラスを置き、別の客に呼ばれ応対に向かう。
「あの娘は?」一川警部が燐の素性を尋ねてくる。
「ああ、この高校に通う女子高生ですよ。
つい最近、起きた自殺事件それが人殺しだから調べてくれとのことで。
勿論、断りましたけどね」
「そりゃあ、ついているばい。
どやろ、あの娘の依頼を受けるっていうのは。
そしたら、あたしも協力するけん」
「はぁ、というか俺が探偵を稼業にしているって調べたんすか」
一気に生ビールを飲み干す長四郎。
「おおっ、良い飲みっぷりやね。感心、感心」
「あ~っ、美味い。風呂上がってから何にも飲まずに来たんで。
やっぱ、生は最高ですね」
「お、長さんの口からそげなことが聞ける日が来るとはね。
あたしが呑んでいると「酔っ払いが!」みたいな目で見てたのに」
「昔の話ですよ。それより事件の事なんですがね。
警視庁からお金頂けるのならお引き受けします」
「少しだけなら出せんこともないけど・・・・・・
上の人間が何て言うかな?」
「じゃあ、辞めます。
あそこでクレーム対応している女子高生の依頼も受けます。そこから探偵料をもらいます」
長四郎が燐の方に目を向けると、ハイボールが薄いとベロベロに酔った客に絡まれていた。
「すいません、すいません」燐は、平謝りし続ける。
「長さん、そういうわけにはいかんから上には何とかして説得するけん。
頼むわ。この通り」一川警部は、頭を下げて頼み込む。
「分かりました。一川さんの依頼を受けます」
長四郎は一川警部を当てにしてはおらず、席を立ち、燐の元へ向かう。
「お客様、これで宜しいでしょう。か!」
燐が客に呑みかけの薄いと言われているハイボールを頭にかける。
「な、何、するんだ! 店長だ! 店長を呼べ!!」
酔っ払い客が大声で喚き散らす。
「お客様、申し訳ございません。うちのバイトが粗相をしたみたいで」
何故か、長四郎がその店の店長として対応する。
「おう、あんた店長か! 一体どうなっているんだ! この店の教育は! ええ!!」
「誠に申し訳ございません。お客様も相当、酔われているようなので薄いと感じるんだと思います。あまりうだうだ言われるようならタダで構いませんので」
長四郎は酔っ払い客の襟を掴み、店から追い出して言う。
「ご来店ありがとうございました」
「おっ! おい!!」
客が店内に戻ろうとするがその前にドアを閉める長四郎。
向かっ腹が立った酔っ払い客はドアを蹴ろうとするが、その前にドアが開き長四郎が出てくる。
「くれぐれも、ドアを蹴るというような子供じみた真似はしないでくださいね」
「ぐっ!」何かをこらえる酔っ払い客はどこかへ行った。
店内に戻ると、店に居た客、店員がスタンディングオベーションで拍手して出迎えてくれた。
長四郎はそのまま自分が居た席に座る。
「いやぁ~かっこよかったよ。長さん」
一川警部が手を叩いて茶化す。
「勘弁してくださいよ。あ、生ビールもう一つ」
長四郎は疲れた顔立ちで、近くに居た店員に注文をする。
そこから他愛もない話をしていると、燐が生ビールを長四郎に持って来た。
「生ビールです」
テーブルに生ビールの入ったグラスを置いて立ち去ろうとする燐。
「あ、依頼受けることになった」ぼそっと呟く長四郎。
「え? 今なんて」
立ち止まり、長四郎に確認する。
「だから、依頼を受けると行ったの。
明日の夕方6時、事務所来て」
「分かった」
燐は了承した旨を伝え、仕事に戻る。
「やるやん。長さん」
「ということで、明日の午後にこれより詳しい捜査資料を持ってここに来てください」
「はいよぉ~」
長四郎からの名刺を受取った一川警部は、ぬるくなった生ビールを一気飲み干した。