序章
「華娘……後宮に入内しても僕のことは忘れないでいてね」
華娘よりも背の低い少年は顔を俯かせ寂しそうに呟いた。まだ幼い顔立ちの少年はその大きな瞳に涙を浮かばせ行かないでと言わんばかりに袖を引いている。華娘は愛しい少年の頭を撫でると、耳元に顔を近づけ、ある約束事を囁いた。
「白衛。たとえ私が皇帝から寵愛を受けたとしても、私は貴方のことを忘れませんし思い続けるでしょう」
そう言い残し顔を上げると少年は頬を紅潮させ可愛い八重歯をのぞかせながら華娘のことを見つめていた。子供の浅はかな考えから生じた約束事など大人は信用しないだろう。この約束は誰にも聞かれてはいけないし、時が経てばこの記憶も時間と共に忘れられていく。
華娘は少年に微笑むと屋敷の外で待っている馬車の方へと足を動かした。煌びやかな髪飾りは華娘の動きと共に揺れしゃらしゃらと音を奏でている。
今日、後宮に入内する妃の名は楊華娘と言う。齢十五という後宮内でも最も最年少の入内となり、華娘に与えられた位というのが四夫人の中の淑妃であった。
後に後宮で最も皇帝から寵愛を受ける存在になるがその一方鐘家の息子、鐘白衛は武官として宮廷に務めることになる。
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