ご婚礼
ご婚礼
安岡 憙弘
「大変じゃ婆さま。」
「今日はお姫様のご婚礼の日じゃというのに祝いの餅が鼠に喰われてしもうた。」
「殿様は縁起が悪いと言うて村中のもん総出でもう一度もち米をかき集めとるんじゃ」
「ほんに大きな鏡餅じゃからのう。今からでは間に合うかのう。」
「そんなこと言うてる場合じゃねえ我等の自慢のお姫様のお為じゃ、いやが応でも間に合わせねばならねえ。」
「こういうときに苦労するのが村のもんじゃ。まあ今年は子年じゃけえ、ねずみが出るのは良い面もあろう。天下泰平のおためとか申して争うておるこの時期に久しくなかっためでたいことじゃ。どれ、老婆もこの重い腰をあげようかのう。」