表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/20

第5話 それはもう匂わせじゃない

 翌日。

 目を覚ますと、隣にいるはずの千冬さんがいなくなっていた。


 俺は不安になって、慌ててベッドから飛び起き、寝室を出た。


 俺が千冬さんを探しながら廊下を駆けているとすぐに彼女は見つかった。

 千冬さんは配信部屋で配信の準備をしていたのだ。


「おっ、葵くん起きたんだね! って、どうしたのそんな泣きそうな顔しちゃって!」


 俺は自分が思っている以上に以前の生活を引きずっているのかもしれない。


 起きたとき隣に千冬さんがいなかっただけで俺の元からいなくなってしまったと思い込み、「いなくならないで」と思ってしまった。


 そもそもここは千冬さんの家なんだしそんなこと、あるはずないのに……。


「いえ、大丈夫です。ただ……」


「ただ?」


「少し寂しかった、不安だっただけです」


 俺がそう言うと、千冬さんは「私はいなくならないよ」とだけ言って、俺のことをぎゅっと抱きしめてくれた。


 その温もりは俺に安心感を与えてくれた。


 俺が落ち着いたのを確認すると、千冬さんは手を離し、ニッと笑顔を見せた。


「もう大丈夫そうだね」


「はい、すいません。男なのにこんな情けないとこを見せてしまって……」


「いいんだよ。別に謝る必要もないよ? こういう時はね、すいませんっていうよりも、ありがとうって言ってもらった方がお互いに気分が良くなるから、謝るくらいなら感謝の気持ちを言おう! ねっ?」


「たしかにそうですね。ありがとうございます、千冬さん」


「うん! どういたしまして!」



 謝るくらいなら、感謝の気持ちを……か。


 本当にその通りだな。


 千冬さんは本当に凄い人だ。

 彼女の横にずっといられるような人になりたいな。


「あ、そう言えば配信の準備をしていたんですよね? もうすぐ配信するんですか?」


「うん、そうだよ。なんだったら、配信中、横で見とく?」


「え!? いいんですか?」


「いいよ。でも、声は出さないようにね? 事務所に怒られちゃうからねっ」


「あ、はい、わかりました」


「あと、今日の配信でね、葵くんのデビューを匂わせようと思ってるんだ!」


「え、それって大丈夫なんですか?」


「うん、事務所からも許可はもらってるよ。お、もうすぐ時間だから始めるね」


 千冬さんの配信。

 つまりは、兎野ウサの配信。


 それを横から見れるなんて、感動だ。


 どんなに古参のファンでも体験のできないことだ。


 よく見ておかなければ!

 数ヶ月後には俺もVtuberになるんだ。


 色々と見習わないと。






 千冬さんは配信を始めた。


『こんウサ~!』


 兎野ウサが恒例の挨拶をすると兎野ウサのファンである『ウサ民』たちも同じように挨拶を返す。


【チャット】

:こんウサ~

:こんウサ~

:お、始まった

:こんウサ~!

:昨日配信お休みしてたけど大丈夫?



 昨日は配信を休んでいたこともあり、心配する声も上がっていた。


『昨日配信休んでしまってごめんねっ』


 と、兎野ウサは謝罪を入れる。


『昨日はね、バーチャライブの事務所に用事があったからね。それで配信できなかったの』


【チャット】

:ウサちゃんなら許す

:寂しかったよー

:事務所に行ったってことは近々何かあるのかな?

:↑それ思った



 事務所に行ったということだけで何かあるのではないかと、勘づいている人もいるようだ。


 横から見ていて思ったのだが、140万人以上の登録者を誇るVtuberということもあり、チャット欄の流れがものすごく速い。

 よくそこからコメントを拾えるものだ。



『そう言えば、みんなに言ってなかったんだけどね、私、弟がいるんだよね~』


 兎野ウサは弟がいることを公表した。


 その弟というのは、俺のことだろう。


 次の瞬間から、ただでさえ速かったチャット欄の流れが更に速くなった。


【チャット】

:弟?!

:なんだってぇ!!!

:ウサちゃんの弟かぁ、どんな感じの子なんだろう

:めっちゃ気になる!

:急にこの話したってことは、昨日の用事と何か関係するのでは?!

:↑そゆことか!

:やべえ!



『みんな、察し良すぎない!? まあ、合ってるんだけどね! 弟とは一緒に暮らしてるんだけど、みんなが弟の声を聞ける日も近いうちに来ると思うよっていう報告でしたー』


 待って。


 それって、もう匂わせじゃなくない?

 もう言っちゃったようなものでは?


 チャット欄も爆速で流れていく。


【チャット】

:なんかいつも以上にテンション高いね

:まさかブラコンか!

:ウサちゃんの弟……羨ましい……

:ウサちゃんがブラコン。それも良いな!

:弟くんもVtuberデビューするってことだよね?

:↑多分そう

:これは楽しみ♪



『あちゃー、匂わせのつもりだったのにみんな当てちゃってるね! ま、いっか!』


 そんな感じで、その後も兎野ウサは弟の話をしてこの日の配信は終了した。



 千冬さんは配信を終えた後、「言っちゃった~」と照れていたが、その姿すらも可愛いかった。

 見た目こそ違うけど、やっぱり千冬さんは兎野ウサなんだなあと思った。


 キャラを作って配信している人もいると聞いたことがあるけど、少なくとも千冬さんは配信内でも素の自分を出しているようだ。




 因みに、その日。

 『兎野ウサ弟』というワードがトイッターというSNSでトレンド入りをしていたらしい。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ