赤銅澪VS中多翔太 空手対柔道
NEO麗の加勢、そして何よりも武先輩がMIDNIGHT EMPRESSの総長、浄御原をKOした事で形勢が完全に逆転した。
「アンタら聞きなさい! 浄御原和博はあーし達NEO麗の小碓武がぶちのめしたんだから!」
流麗ちゃんが失神した浄御原の顔を足で踏みつけていた。
「降参するか、それともアンタらもこうなりたい? どちらかを選らばせてあげる!」
恐怖を植え付ける為なのか、朝生孝子と草薙神子が失神させた雑魚を浄御原の隣にゴミの様に投げ捨てた。
「クソっ! コイツ等化け物だ!」
「冗談じゃねーぞ! 付き合ってられるか!」
「俺は族の決まりで抜けられねーから続けてただけだ! 俺はもう抜けるぜ!」
個人の事情などこちらの知った事では無いけれど、中には自分勝手な事を言いながら次々とMIDNIGHT EMPRESSの連中は逃げて行った。
「馬鹿野郎! テメーラ戻れ! ぶち殺すぞ!」
僕を締め落とした中多はこの情勢で尚も留まり、逃亡が相次ぐMIDNIGHT EMPRESSの連中を引き留めようとしていたが、呼応する者は少なかった。
アイツだけは僕がやらないと―
僕は立ち上がって中多の元へ向かおうとすると、その前に澪ちゃんが中多と相対していた。
「よう大将♪ウチのカズが世話になったな……只で帰れると思うなよなぁ!」
「なんだ? テメー一応女か? 舐めんなよ!」
中多が両手で澪ちゃんの服を掴んだ。
組技が使えない澪ちゃんには圧倒的に不利な体勢だったけれど、彼女は前足に重心を落とした空手の猫足立になりつつ、中多が掴んだ両手の内側で自分の両手を×の字にクロスさせ、両拳を左右に掻き分ける様にして腕を捻りながら開くと、服を掴んだ中多の腕が外れた。
以前澪ちゃんから聞いた事があるけれど、これは空手の「諸手掻き分け受け」という受け技らしい。
空手競技では両手で掴む事を禁止されているルールが多い為にあまり知られていない技だけれど、現実の闘争において大体の相手は打撃よりも掴んでくる場合が殆どなので、護身術として使える技だった。
柔道では無い技なので、中多も対応できずあっさりと手を放してしまった。
中多の手が離れた一瞬の隙を突き、澪ちゃんは中多の胸部を突いて空間を作ると、膝を胸元につけるぐらいカイ込み、押し込む様にして前蹴りを放ち中多を突き放した。
澪ちゃんの腰を踏み砕かんばかりの勢いの前蹴りで中多は腹を蹴り飛ばされると、大きく後ろによろめいた。
日本拳法と同じく、防具を装着する硬式空手では前蹴りはポイントが取りやすい重要な武器なのだ。だから澪ちゃんの前蹴りの威力は半端では無かった。
「まだまだ倒れるんじゃねーぞ!」
澪ちゃんは中段構えに拳を構えると、硬式空手らしい縦拳のノーモーションのワンツーで中多の顎を打ち抜いた。
ボクシングやキックボクシング等の一般的な構えと違い、腕が中段に下がっている為に相手のパンチの防御が難しいデメリットがある構えだけれど、下から突きが放たれる為に相手からすれば突きが見づらいというメリットもある。
澪ちゃんはボクシングも使うけれど、相手が大したパンチを打ってこない事は分かっている為に防御を重視せず、硬式空手の打撃で勝負する事にしたのだろう。
「オラオラあっ!」
ワンツーを数回繰り返し、打撃が素人で全く反応できない中多をいたぶると、小さく足を引っぱり、弧を描いて爪先で腹を蹴り込んだ。
先程の足裏で踏み込む様な前蹴りがムエタイのストッピングの様な「面」の蹴りだとすれば、今の爪先の前蹴りはダメージを与える為の「点」の痛い蹴りである。
硬式空手の競技用の技術と、空手本来の用途である護身や実戦の技術も状況に応じてどちらも使いこなす見事な戦い方だった。
「ぐふっ!」
うめき声を上げた中多の体は大きくくの字に曲がり、上体が下がると澪ちゃんは前足蹴りで半身になった勢いを利用して、後ろ足で上段廻し蹴りを中多の側頭部に命中させ、薙ぎ倒す様に足を思い切り振り抜くと、中多は前のめりになり地面にぶっ倒れた。
失神してしまえば僕の時の様に背後から騙し討ちも出来ない。
「どーするんだ? まだやるか?」
派手にぶっ倒れた中多の頭を踏みにじりながら、澪ちゃんはまだこの場に残っているMIDNIGHT EMPRESSの連中を睨みつけた。
幹部級のメンバーが全員敗北した事により、残された雑魚達はバイクも捨てて蜘蛛の子を散らしたように逃げ去って行った。




