脂肪の鎧は強固だったりする
NEO麗の加勢で戦況は一気に変わった。
彼女達は五人で二十人の戦力に匹敵すると自称しているのも強ち嘘とは言えなかった。
打撃に偏重気味な麗と違い、武先輩以外は打撃だけでなく組技も使えると言うNEO麗の戦力の充実ぶりは凄かった。
姫野先輩の妹である織戸橘火受美は敵の服を掴み、膝蹴りを二発喰らわせると右支えつり込み足で敵の足を刈り、横四方固めから頭部への膝蹴りで敵を失神させるのに30秒ぐらいしかかからなかった。
確か膝を怪我していたと聞いているけれど、ガンガン膝蹴りを打っているので既に完治したのか、問題はなさそうだ。
日本拳法は柔道出身者や投げ技が得意な選手が有利と聞いた事があるけれど、彼女の投げから極めの打撃へ移るスピードが半端では無かった。
僕はその時観ていなかったけれど、拳を交えたと言う恵先輩も認めているらしい彼女の実力は本物だった。
隣で朝生孝子が自分より二十センチ以上デカイ相手を三角締めで落としていたけれど、やはりNEO麗最強という織戸橘火受美よりは手際が悪く感じた。
でも、多少体格差があろうと寝技が得意であれば大きな戦力と言えた。
その横で二人に襲い掛かろうとする敵を打撃が得意な流麗ちゃんと武先輩が応戦して、草薙神子がその二人の背を守る様にして戦っていた。
「クソっ! 役立たずどもが! どけ!」
樽の様な肥満体型の男が進み出てきた。
「確かアイツがMIDNIGHT EMPRESSの総長、浄御原和博だよね」
「うん。確か麻薬中毒って噂もある浄御原だよね」
事前に得た情報だとフルコンタクト空手の使い手で小学生の時に地区大会で優勝した事もあるとか。
小学生の頃、同じ流派の全国大会で優勝した麗衣先輩の実績には程遠いとは言え、男子である事と体重が百キロはありそうな肥満体のあの体から繰り出されるパワーは半端じゃなさそうだ。
「アンタが浄御原? 少年部で天才言われてたんだっけ?」
流麗ちゃんが浄御原に訊ねた。
「あ、テメーは俺の後輩か?」
「うん。あーしが始めた頃には辞めてたみたいだけど、浄御原和博ならウチの支部でソコソコ有名人だったからねぇ」
「ハハハハッ! じゃあ、俺には勝てねーって解ってるよなぁ?」
「うんにゃ。こんなデブだって知って幻滅しまくりってカンジぃ? 毒舌吐いてるデラックスなテレビ芸人かと思ったよ」
「このアマが! ぶち殺したらぁ!」
浄御原が順突きと呼ばれる空手のリードパンチを放つと流麗ちゃんは低い体勢でヘッドスリップしながら攻撃を躱し、懐に飛び込むと左右の鈎突きを力強くボディに放つが―
「効かねぇな!」
「きゃあっ!」
浄御原が丸太の様な足による右膝蹴りの一撃で返すと、流麗ちゃんは咄嗟に腕を交錯させてガードしたにもかかわらず吹き飛ばされて、地面に尻餅を着いた。
「何てパワーなの! それにあんなお腹じゃボディが効かないかも」
余り知られていないが、実のところ見栄えが良い腹筋よりもある程度脂肪があった方がクッションの役割を果たし、衝撃を和らげ易い。
至近距離で胴を殴り合うフルコンタクト空手の試合ではキックボクサーの様な締まった体系よりもプロレスラーの様な体系の選手も多く存在するらしい。
だから、香織ちゃんの言う通り、あの腹では脂肪が鎧になってダメージを与えるのは困難だろう。
「死ねやあっ!」
流麗ちゃんに向けて追撃の前蹴りが放たれようとしたその時だった。
斜めの横の位置から武先輩が前蹴りで浄御原の膝を蹴り飛ばして流麗ちゃんを守った。




