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吾妻香月VS中多翔太⑴ 男の娘は赤ずきんじゃなくて狼でした。

「これまた随分可愛らしいお嬢ちゃんが相手じゃねーか」


 中多はわざとらしく舌なめずりをしたので、その醜悪な表情だけで僕は吐き気を催したけれど、嫌悪感を抑えて僕は微笑んだ。


「えっと……僕、少し柔道やってますけど、本当は喧嘩なんか大嫌いなんですよ♪」


 こう見えて男である事とボクシングを使う事を隠し、小声で中多に言った。


「あ? じゃあなんでそんなグローブつけてこんな所に来てるんだ?」


 中多は僕の簡易バンテージを指さして当然の疑問を口にした。


「僕、あの子達と友達なんですけれど、一寸だけ格闘技経験あるからって無理矢理連れて来られているんです。このグローブも借り物で初めて嵌めたんですよぉ」


 僕の空気を吐く様についた嘘を聴いて、同情したのか? 中多の表情が少しだけ曇った。


「そうなのかい……ソイツは可哀そうだな」


「だから、手加減して早く終わらせてくださいね♪」


 僕は片手を口に当てて、ウィンクをしてみた。


「わかった。手加減してやるけど、条件があるぜ」


 どんな条件なのか、大体察しがついたけれど、僕はわざと分からないフリをして聞いた。


「条件って……何でしょうか?」


「後でやらせろ」


 予想通り過ぎて怖気が立った。


「ええっ! 嫌ですよぉ~」


 嫌なのは事実だが、僕は()()()断って見せた。


「この後、俺らが勝ったらお前等全員、輪姦まわされるぜ? だったら俺一人に()()()方が良いだろ?」


「ど……如何いう事でしょうかぁ?」


 泣きそうな声を出して見せると、中多はさっきまでの同情した素振りから一転して弑逆的な表情を浮かべた。


「お前だけは俺が守ってやるよ。他の奴には絶対に手を出させねーからよ」


 コレ、口説いているつもりだろうか?

 本音が表情に駄々洩れなんですけど?

 吹き出してしまいたいのを必死に堪えながら、僕は微笑んでみせた。


「ありがとうございます! よろしくお願いします!」


「しっ! そんな感謝されたら他の連中にバレるだろ!」


 中多は周りを警戒しながら言った。

 幸い、橋を挟んで対峙している麗とMIDNIGHT EMPRESSのメンバーとは距離が離れているから多少の会話していても聞こえない様だ。


「そろそろギャラリーに気付かれたらヤバいから始めるか」


「分かりました。優しくしてくださいね♪」


 中多は両足を肩幅ぐらいに開き膝をやや曲げると、右手を前に出した。


 柔道で言う自然体と呼ばれる構えだ。


 中多の懐が深く、体格も圧倒的に違うから柔道で戦うのは不利だろう。


 でも、僕の柔道は競技化されルールが制限された柔道では無い。


 油断しきっている中多が不用心にも真っすぐ蹴りの間合いに入って来た。


 僕は自然体の構えよりもやや後方に足を引き、勢いをつけ足を延ばしながら高く蹴り上げ、中多の胸を強く打った。


「!」


 柔道を使うと言っていた僕から、まさか蹴りを喰らうとは思っていなかったのだろう。


 でも、柔道の型には確かに当身が存在しており、例えば「精力善用国民体育の型」には前蹴り、後ろ蹴り、左前斜め蹴り、右前斜め蹴り、高蹴りの五方蹴りと呼ばれる蹴りが含まれている。


 今僕が使ったのは柔道の高蹴りと言う蹴りで、空手の前蹴りに近い。


 僕はこれらの蹴りを道場や女子会で練習しており、麗のメンバー達の様な打撃のスペシャリストには遠く及ばないとは言え、実戦でも使えるレベルまで練習を積み上げてきたのだ。


 多くの柔道の道場がそうであるように打撃を実戦レベルで使えるようにきちんと教える事は稀であろうから、中多は蹴りへの対応を知らなかったのだろう。


 避ける事も避ける事も出来ずにまともに蹴りを受けた中多の動きが止まった。


 僕は蹴り足を引き戻さずに中多の足元に落とし、サウスポースタイルにスイッチすると、リードストレートで中多の眉間を打ち抜いた。


「ぐっ!」


 リーチの差がある相手の場合、利き腕の右手が奥手になるとパンチが当てづらい。

 僕は武先輩とスパーした時の様に左右どちらのスタイルでもボクシングが出来るので、右手を前手に出す事により、強いリードパンチを当てる事が出来るのだ。


 二発、三発と眉間を打つといよいよ中多も怒りのスイッチが入ってしまった。

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