赤銅兄妹
「がはっ!」
俺の前蹴りで膝を蹴り飛ばされ、突進を止めた敵の顎を右ストレートで打ち抜くと、ソイツは大の字でぶっ倒れた。
「クソっ! お前等しつこい!」
俺の隣で孝子が下から上に振り上げる様にして棒を敵の顎を突きながら愚痴を叫んだ。
「これじゃあキリが無いよね!」
神子は左のローキックで意識を下に向けてから左のハイキックを敵の頭部に叩きつけると、敵は糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。
「はあっ!」
自分の警棒よりもリーチで上回る木刀の男に面をくれてやると、火受美は流麗に聞いた。
「流麗! 大丈夫か?」
敵のサイドに踏み込み、ボクシング部で練習したワンツーから左フックのコンビネーションを綺麗に決めた流麗は答えた。
「あーしは平気! でも、敵さんもまだまだこれからってカンジ?」
既に敵の半数近くは倒したはずだが、殺し合いでは無いので、一度は失神した奴も意識を取り戻すと襲い掛かってくる。
そのインターバルは長くても数分程度だから人数差は中々縮まらない。
こちらは十人で戦い四分戦ったら五人は二分休むという戦法を取っているので、長時間戦えるという利点があるが、この戦法だと一度に敵を叩ける人数も減ってしまう為、中々敵を減らせないという欠点もあった。
それに拳も限界っぽい感じだな。
掌底だと雑魚相手でも倒せる気がしないし、一撃で敵を倒せる程の蹴りは……あったな。
「せいっ!」
膝を斜めに上げて、前蹴りと廻し蹴りの中間の軌道で蹴り足を走らせ、気合を込めながら目の前の敵の脇腹を蹴り飛ばすと、悶絶して蹲った。
三日月蹴りなら俺でも敵を一撃で倒せそうだが、蹴りの方が体力を使う。
そもそも四分って総合格闘技ならとにかく、立ち技格闘技では中々見かけない時間の長さだよな。
まぁ二分もインターバルがあるからマシかも知れないが、自分のターンが三回も四回も来ると流石に疲労が回復しきらない。
「ハハハハッ! どうしたんだテメーラぁ? そろそろお疲れの様だなぁ?」
離れた場所に移動し、三十名ほどの取り巻きに囲まれた足振は自分の所までは届かないと高を括っているのか?
余裕を見せて俺達を挑発してきたが、事実足振の下まで届きそうにない。
「アノ野郎! タイマンなら余裕なんだけどな」
「何か言ったか小碓! テメーには恨みがあるからなぁ、後でじっくり可愛がってやるよ!」
足振りがイキり出したその時だった。
自分の優位性を信じて疑わない足振だったが、盛大な爆音とともに校門から十台程の族車が校庭内に侵入すると、表情が一転して呆気に取られている足振達の背後で単車を止まった。
「テメーラ! 何者だ! ここは首師高校の縄張りだぞ!」
そう言いながら首師高校のヤンキーがバイクから降りた男に殴り掛かると、男は上体だけでスッとバックステップしてパンチを躱すと膝をカイ込み、腰を回転させながら相手の首に足の甲を振り下ろす様に上段廻し蹴りを決めると、ヤンキーは数歩よろめいてから地面に倒れた。
この気持ち悪い軌道のブラジリアンキックは見覚えがある。
ヘルメットを脱いだ男……いや、男だろうが女だろうが節操なく手を出す男女は俺が最も苦手にしている一人だが、こんな場所に限ってはコイツ程頼もしい後輩は居ない。
「鮮血塗之赤道一夜限り復活! NEO麗の助太刀に参上!」
ヘルメットを脱いだ澪はドヤ顔で言った。
そうか、澪が居なかったのは鮮血塗之赤道のメンバーと一緒にいたからなのか。
「テメーラ! 鮮血塗之赤道もNEO麗にやられたんだろうが! 何で助っ人何てしやがるんだ!」
「あ? テメーラが姑息な手を使って俺達とNEO麗をぶつける気だったんだろ?」
亮磨先輩はそう言って顎をしゃくると、配下の一人の男がタブレット型のPCを弄りだすと、こちらにディスプレイを見せた。
デイスプレイには何やらリンチされた後なのか? 顔がボコボコにされた男が自白をしている動画を映し出した。
「か……勘弁してくれ! 俺は脅されてデマを流せって言われたんだよ!」
「ソイツはどんなデマだ?」
映っていないが、動画から聞こえるその声は亮磨先輩の物だった。
「俺が麗みたいな三人組に襲われたって……それで目障りな赤銅亮磨と麗で潰し合いをやらせろって言われたんだよ!」
「で、お前にその事を命じたのは誰だ?」
「これを言ったら俺は首師高校に居られねー……それだけは勘弁してくれ!」
「だとよ澪? 如何すれば良いと思うか?」
「うーん……取りあえず一生エロイ事出来ない恥ずかしい体にしてやろうか?」
映っていないが、如何やら拷問役は澪だったらしい……。
「だとよ。今後の人生を女として過ごすか、首師高校辞めるのと、どっちが良いか?」
その男は澪の残虐さを文字通り身を以て思い知らされてきたのだろう。
リンチされた男は悲鳴を上げながら自白した。
「ひいっ! 言います……あっ……足振です! 首師高校の足振辺です!」
男がそこまで言うと動画は終了した。
「全く……コイツは首師高校に通っている元・鮮血塗之赤道の身内でな。すっかり騙されていたって訳だ」
亮磨先輩はポリポリと頭を掻いた。
「まぁ、鮮血塗之赤道が解散しちまった以上、アイツを強制する権利は俺にもねー訳だし、今回の事態は俺の人徳の無さが招いたようなモンだ。でもよぉ……テメーラの汚ぇやり口は許せねぇ。だからテメーラを潰すぜ」
「ハッ! テメーラだって十人しか居ねーじゃねーか! 弱小暴走族にこの人数差が覆せるとでも思ってるのか?」
そこに再び澪が口を挟んだ。
「俺達だけじゃねーぜ? この後、傘下に加えた邊琉是舞舞と飛詫露斗も援軍に来るぜ?」
「何?」
「証拠にアイツ等の旗借りて来てるぜ」
澪が顎をしゃくると、二人の仲間が邊琉是舞舞と飛詫露斗と書かれた派手な刺繍が施された旗を掲げた。
「この後、鮮血塗之赤道の親衛隊が来て、邊琉是舞舞と飛詫露斗も合流して合計六十が加勢するぜ。お前等、只の不良がここいら一帯の族相手に喧嘩売る勇気があるか?」
「六十……」
足振が息を飲んだ。
麗・NEO麗と助っ人連合十五人にこれだけ手こずり、今加勢に来た鮮血塗之赤道十人、更に六十人を相手しても数の上ではまだ上回るが、十数人では微差でしかないし、澪の言う通り只の不良が暴走族の相手になると思えない。
そんなやり取りをしていると、威嚇する様に近隣から幾つものバイク音が木霊した。
「さて。そろそろ援軍第一陣到着ってとこか? 如何するんだ?」
亮磨先輩が訪ねると足振は虚勢を張ったが動揺を隠しきれない様子だった。
「そっ……それでも人数は俺達が上だ! お前等! 怯むな! やっちまえ!」
「そう来なくちゃな! 俺達も久しぶりに暴れてぇしなぁ!」
「兄貴! 久々に一緒に暴れられるなぁ!」
「おおよ! 今日は食い放題だぜ!」
再び、乱戦が始まった。




