立国川高校ボクシング部へようこそ……って勝手に入部届に俺の名を書くな!
「おっ……おじゃましまーす……どなたかいらっしゃいますでしょうか?」
俺はおどおどしながらボクシング部の練習場があるプレハブの扉を叩いた。
ボクシング部と言うとやっぱり昔の亮磨先輩みたいな不良が多いのだろうか?
麗衣達と一緒に暴走族潰し何かやっているのに、それでも根本的に臆病な俺は不安で仕方なかった。
「ハーイ! 入ってきてどうぞ!」
不安とは裏腹に元気で張りのある声に迎えられた。
「「「失礼しまーす!」」」
俺達は練習場に入ると身長170センチ以上はありそうで、恐らく男子の平均身長ぐらいありそうな長身でショートモブの女性がニコニコしながら出迎えてくれた。
結構デカいな……身長だけじゃなくてフィットネスで着用されるようなトップスがはちきれんばかりのたわわに実った果実が。
「立国川高校ボクシング部へようこそ! 見学するならここにある紙に名前を書いてね♪」
そう言って俺達に突き付けられた紙をみると『入部届』と書いてあった。
「あっ。ハイ分かりました」
「ハイ! 僕も!」
勝子と吾妻君は何の躊躇いも無く入部届に自分の名前を書こうとしていた。
「ちょっ……一寸待って! 普通、見学もしないでいきなり入部届にサインしちゃうか?」
「ここまで来て今更何言っているのよ? アンタも男だったら一度やると決めたらさっさとサインしなさい」
「いやいや……そもそも俺にはキックがあるし……」
俺が躊躇していると、女性は俺の手を両手で強く握りしめて、目をキラキラと輝かせた。
「君! キックの経験者かい! 素晴らしいじゃないか! 歓迎するよ!」
「はっ……ハァ……でも、流石に両方やるのは難しいかと……」
俺がやんわり断ろうとすると、勝子は横から口を挟んだ。
「ランニングや筋トレ、縄跳びをボクシングの練習時間に廻せば良いじゃない? その分ジムでは集中してキックの練習出来るし、用具も共通しているから使いまわせるし、部費以外にお金かからないわよ」
それはそうかも知れないけれど、部活でボクシング2時間、ジムでキックの練習2時間って結構ハードだよな?
それにMMAも週二日やっているから、その日はキックの練習日よりずっと疲れるのにボクシングまで出来るだろうか?
「武先輩も一緒に入部しましょうよぉ~試合で堤見選手をパンチで倒した先輩ならボクシングでも凄いと思いますよ♪」
上目づかいで吾妻君はそんな事を言うと、ショートモブの女性は俺にグイと顔を寄せて大声を出した。
「何と! 堤見だって! 堤見って……、もしかしてインターハイ出場のあの堤見修二の事かい!」
グイグイと顔を寄せて訊ねられ、若干遠慮がちに答えた。
「えっ……まぁ、そうですけど」
「何と……キックボクシングに競技を変えたと噂は聞いていたけれど、あの人を敗るなんてね……堤見先輩……堤見選手は私と同じ中学の先輩だったんだよ」
「マジですか?」
それは気まずい……と思いきや、ショートモブの女性は握った俺の手をブンブンと振って喜んだ。
「あははは! あのお高く止まった先輩を倒してくれたの! 良いね、君! 最高だよ!」




