ヤンキー女子高生の下僕は〇〇になりました
ファントム・伊吹尚弥達との激闘の翌日。
朝一で麗のメンバーとNEO麗のメンバーは屋上に集合する様に麗衣から連絡があった。
昨夜は警察から逃れるために解散時にバラバラになった為、あれから麗衣以外のメンバーとは顔を合わせていない。
麗衣はまだ登校していないので少し待つ事も考えたが、恐らく律儀に先に来ているであろう一年のメンバーが気になるので俺は早めに屋上へと向かうと、そこには既に顔に絆創膏を着けた香織と吾妻君の姿があった。
「おはよう二人とも」
俺が挨拶すると、香織は俺の顔を見ると満面の笑みを浮かべ挨拶を返した。
「武先輩! おはようございます!」
一方の吾妻君は香織とは対照的に何と無くバツの悪い表情で挨拶を返して来た。
「おっ……おはようございます。武先輩」
何時もは俺を見ると嬉しそうな顔をしている吾妻君が、何故その様なしょぼくれた態度なのかよく分からないけれど、それよりも先ずは今まで酷い目に遭って来た香織のケアが必要かと思い、彼女に訊ねた。
「その……香織はアレで気が済んだか?」
俺は伊吹への制裁の事をアレぐらいで良かったのかという意味で訊ねた。
伊吹には鉄拳制裁を加えたし、数々の犯行を重ねて来たであろう伊吹の少年院送りも確定だろうが、もしかしたら香織としてはこれ以上の制裁を望んでいたかも知れない。
「ハイ。もう充分です。皆さんに……特に武先輩に何てお礼を言えば良いのか……」
香織は頬を赤らめて俺の顔をじっと見つめていた。
そんなに真っすぐと見つけられてしまうと照れるので止めて欲しい。
「俺達は仲間だろ。当然の事をしたまでだ」
「あっ……あのぉ~」
吾妻君が横から遠慮がちに声を掛けて来た。
「如何したの?」
「その……昨日は生意気言っちゃってゴメンナサイ!」
そう言って吾妻君は唐突に土下座を始めた。
土下座をされるほど失礼な事をされた記憶が無いので困惑した。
「なっ……何の事かよく分からないけど、とにかく頭を上げてくれ!」
年下の、しかも見た目だけは美少女の彼が土下座している姿なんて誰かに見られたら俺が悪者にされるに違いないので、慌てて止める様に促した。
「いいえ……武先輩への暴言は許されるものではありませんし……特に『臆病者』だなんて言ってしまいましたけれど、武先輩はちゃんと来てくれましたし、それどころか銃相手にも怯まずに伊吹を倒した、あの姿は感動しました! 本当に尊敬してます!」
そう言えば臆病者とか何とか言ってたっけな?
伊吹への怒りが余りにも強すぎて、吾妻君に言われた事なんてとっくに忘れていた。
そもそも、麗のメンバーであるだけでなく、同じボクシング部の文字通り可愛い後輩でもある吾妻君とこんな事でギクシャクするのも嫌だった。
「ああ。銃は君に『講道館護身術』教わっていなければ如何しようもなかった訳で、俺一人じゃ倒せなかった。伊吹を倒せたのは君のお陰でもあるんだよ」
「僕の……お陰ですか? 本当でしょうか?」
俺の言葉が意外だったのか、吾妻君はうるうると瞳を潤ませ俺を見上げた。
うっ……そんな主人に捨てられそうなペットみたいな目で俺を見つめないでくれ。
「そう。つまり伊吹に勝てたのは俺一人の勝ちじゃなくて、俺と吾妻君、ひいては麗の勝利なんだよ。だから、吾妻君には感謝こそすれど、怒ったりなんかしてないよ」
我ながら強引な理論だったけれど、吾妻君は瞳を輝かせて立ち上がった。
「ありがとうございます! でも、僕の気が済まないのでお礼はさせて下さい!」
「お礼? 別にそんなの良いんだけれど?」
俺はペットボトルに入ったボコリスウェットを口に含んだ時に、吾妻君が俺の右腕に掴まり、本物の女子の様な流し目を俺に向けながらとんでもない事を言い出しやがった。
「体で返します! 僕の体を自由にして良いですよ♪」
ブーーーーーーーっ!
俺は盛大にドリンクを吹き出すと、激しく咳込んだ。
「ゲホッ! ゴホッ! なっ……急に何を言い出すんだ君は……」
だが、吾妻君は俺のそんな醜態を気にもせず、二重瞼にかかる重そうな長い睫毛を伏せると、肩に頬を当てながらスリスリと猫の様に頬摺りを始めた。
ナニこの腐女子が喜びそうな図は?
俺は織田何某と小姓の森何某の関係みたいな衆道好きな戦国武将じゃねーぞ!
「ああっ! カズ君ってばズルいんだぁ! 武先輩! アタシの体も好きにして良いですよ!」
一寸ムッとした表情の香織が吾妻君に対抗する様に俺の左腕に抱き着き、美少女と美少年のサンドイッチ状態になった。
「いやいや……君達自分の体をもっと大切にしようよ」
「あーーーーーっ! 武っチの浮気現場発見!」
こんな時に、ややこしい奴が一人増えた。
流麗は踵を踏んだ上履きでバタバタと喧しく足音を立てながら凄い勢いでこちらに向かって走って来た。
「浮気って……別に流麗と付き合ってる訳じゃ……うぷっ!」
問答無用とばかりに流麗は俺に飛びつき、ぎゅうっと抱きしめると第三ボタン迄開いた胸の谷間に俺の顔を挟みつけた。
「ちょっ……流麗ちゃんズルい!」
俺の視界が流麗の黒いブラジャーで遮られ、ヘッドホンの様に胸に挟まれている俺の耳に辛うじて香織の抗議がましい声が聞こえた。
ズルいって。
持たざる者の持つ者に対する呪詛の叫びか?
それはとにかく、オッパイに溺れ死にそうな俺の臀部の曲線をすすっとなぞる様に撫でられると、俺の背筋は反射的に反り返り、「ひゃっ!」と声を上げ、流麗が「あん♪」と艶っぽい声を上げた。
「武っチ……そんなに急に動かないで♪」
俺は流麗のぶるるんとパンチボールの様に揺れる胸から顔を引っこ抜くと俺に痴漢行為を行った犯人に訊ねた。
「流麗、誤解を招く様な表現は止めてくれ。それよりか澪、何するんだよ!」
俺の尻を撫でる様な変態は麗に一人しか居ない。
「何言ってるんスカ? 昨日、俺のゼファーを足に使う代わりにお尻撫でさせてくれるって約束したじゃないっスカ?」
……確かにそんなしょーもない約束しちまったな。
でも、あれを冗談と捉える事が無いのが澪と言う女だ。
「あっ……アレは緊急事態という事で……」
「あのファントムを倒して同世代最強のヤンキーになった小碓クンともあろうものが約束を破るつもりですか?」
「同世代最強のヤンキー? 何じゃそれ?」
『ヤンキー女子高生の下僕は最強になりました』ってか?
そんな事を言われても自分がヤンキーのつもりも最強のつもりもないので、違和感しかなかった。
「世界暫定王者を倒した伊吹より強いヤンキーなんて存在しますか?」
「いやいや、俺よりか強い人なんか幾らでも居そうだけどな」
それに、たまたま伊吹とは相性が良かっただけなのかも知れないし、勝てたのも恐らく伊吹の油断や過信があったからで、再度拳をまみえたら勝てる保証は全くない。
「ったく、自分がどれだけ凄い事をやったのかも分かってねーんスカ? あっ、そうか……そう言う事か?」
澪はポンと一つ手を叩くと、ろくでも無い事を言い出した。
「小碓クン、きっと童貞だから自分に自信が持てないんスネ! だったら、俺達全員と公平にHしましょう!」
「はあああああっ! えええええっちって……ととととっ……突然何言い出すの!」
澪の非常識な提案に呆れながら声を上げたが―
「確かにそれが公平かもね……でも一番最初はアタシだからね!」
「えーっ! ズルいよ香織ちゃん。体を差し出す事を言い出し始めたのは僕からだから、僕が一番最初にすべきだよ♪」
「ダメダメ! 彼女候補筆頭のあーしが武っチの初めてを貰うんだから!」
「お前等何言ってるんだ? 小碓クンの皮つきチェリーに一番最初に唾つけたのは俺だからな!」
俺は高2にしてハーレムライフ(男の娘含む)を満喫できると喜ぶよりも、こんな所を麗衣に見られたら殺されてしまうという恐怖が先立ち、必死に煩悩に打ち克とうと奮励努力をしていた。




