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小碓武VS柏次郎 弱い者苛めにもならねーよ

 アタシが舌を噛み切って死ぬ瞬間を柏に見せつけようとした時、まるで部屋の空気が凍てつくかのような寒気を感じた。


 柏はアタシを見ようともせず、アタシの頭越しに視線を別の場所に向けていた。


 その表情には何処か恐れが見える。


 まるで、麗衣先輩が伊吹と戦っていた時の絶望的な表情に似ている様に見えるのは気のせいか?


 何れにせよ、目の前で死のうとしているアタシですら眼中に無いというよりは、危機を感じざるを得ない出来事に直面しているという事なのか?


 アタシは一旦自殺を止め、振り向いて見ると―


「武先輩!」


 颯爽として現れた武先輩の足元で、阿蘇がビクビクと痙攣しながら倒れていた。



 ◇



 俺がロビーに到着すると、吾妻君の服を脱がしかかっていた変態野郎が真っ先に目に移った。


「あ? 何だこのチビは? テメーも混ざりて―のか? ぐうっ!」


 男でおっ立てている変態野郎の無防備な股間をインローキックで蹴り飛ばすと、変態野郎は身を縮こまらせた。


「誰だか知らないけど、後が使えているんでね」


 そう言ってから俺は拳をテークバックし、膝を曲げて腰を落としながらコンパクトに肘を引き、膝のバネを使って腰を右に回転させると同時に肩にグッと力を入れ、下から上に向けて放った左アッパーで変態野郎の顎を突き上げると、インパクトの瞬間手首を返して思いっきりスナップを効かせた。


「ぶっ!」


 止めに変態野郎の跳ね上がった顎に左アッパーを放った体勢を戻す反動で、勢いのついた右ストレート叩き込み、体重を掛けるようにして打ち下ろすと、変態野郎は派手にぶっ倒れ、後頭部をコンクリにぶつけた。


「あがが……」


 ミドル級ぐらいの体格かと思われる変態野郎だが、たったの三発を喰らっただけで見苦しいブツを晒したままビクビクと地べたで痙攣していた。


「武先輩!」


 香織が俺に声を掛けてきた。


 取り敢えず香織の衣服に乱れは見られないから、凌辱の様な目に遭っていなさそうでほっとした。


 だが、小男の足元に転がる麗衣を見て、俺の頭は沸騰した。


「テメーが小碓武か?」


 麗衣の胸を靴で踏みつけている小男は俺に訊ねた。


「その足を下ろせ! 麗衣はテメーなんかが触れて良い人じゃねーんだ!」


「ハッ! その様子じゃあ、このボコボコのドランカー女に惚れてるってか!」


 小男は俺に言われて止めるどころか、煙草を踏みにじるかのように麗衣の胸を踏みにじると「ううっ!」と麗衣の口から苦し気な呻き声が漏れた。


「退けねーと殺すぞ!」


 俺が小男に迫ろうとすると、ツーブロックにベージュ系ハイトーンカラーのスパイラルパーマをかけた身長175センチぐらいの男が俺の目の前に立ち塞がった。


「お生憎様♪これからファントムのお楽しみの時間だから、邪魔なんて無粋な真似しちゃいけないよ!」


 身体的特徴から予測すると、コイツが以前、麗衣が話していた柏という中学の時に麗衣を倒した男だろうか?


「お前が以前、麗衣が世話になったとかいう柏か?」


「そうだよ。だったら何?」


「伊吹もお前も一緒に殺してやるよ」


「笑えない冗談だね!」


 不意に左廻蹴フェッテりで襲い掛かって来たが、俺は右腕のガードを内側に絞り、サイドに移動しながら蹴りを払うと、柏の軸足にローキックを叩き込んだ。


「痛っ!」


 柏がよろめいたところ、俺は腰を落とし、左腕の肘を直角に曲げると、腕を地面に対して水平に振り、強く握りしめた拳で左の肋骨打ショベルフックちを渾身の力を込めて叩き込むと骨が砕ける音が鳴り、拳頭部が柏の肋骨に陥没した。


「ぐわあああああっ!」


 肋骨を折られた柏は地面に転がり、苦痛の悲鳴を上げた。


 俺はその様を同情する気も無く見下ろして吐き捨てる様に言った。


「こんな雑魚ども相手じゃ、弱い者苛めにすらならねーよ」


 俺は顔を上げると小男……伊吹尚弥を手で招いた。


「来いよ伊吹。テメーにはコイツ等以上の地獄を見せてやる!」

お待たせしました!

次回、いよいよ武と伊吹の戦いが始まります!

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