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織戸橘環VS伊吹尚弥 伊吹の正体

 あたしの中学の頃、不良達から阿蘇は最強と言われていた。


 事実、今まで色んな奴から殴られた事があるけど、アイツからリンチを喰らって顔を文字通りぐちゃぐちゃにされた時の拳は生涯で一番痛いパンチだった。


 その阿蘇を倒した香月ならば、どんな相手でも渡り合えると思ったが、その香月が十秒と持たずにやられてしまった。


 一体どんな手を使ったのか?


 香織を救出するためにホンの数秒目を離していただけなのに、どうやって香月が倒されたのかすら分からない。


「テメー……何者なんだ? ……何をしたんだ?」


「俺は()()()()()だぜ。これがお前の問いの答えだぜ」


 何者かという質問には答えて何をしたのかという問いには答えないつもりか。


 まぁ、自分の手の内を明かさないのは当然と言えば当然か。


「お前が伊吹か?」


 後ろから聞き覚えのある声であたしは振り返った。


「環じゃねーか! 如何してここに!」


 シスコンのコイツの事だから火受美の仇でも討ちに来たのだろうけど、火受美をやった阿蘇は既に香月にやられ地べたを舐めている。


 だが、環の目的は阿蘇では無いのか? 伊吹に名前を訊ねていた。


「ああ。俺が伊吹だ。テメーは麗が飛詫露斗アスタロトを潰した時にタイマンでデカブツを倒した奴だよな?」


 伊吹の方は何処かで盗撮されていた麗のタイマンの動画を観ているのか?


 麗のメンバーではない環の事まで知っていた。


「それが如何かしたか?」


「一つ聞きたいが、お前、周佐と比べてつぇーのか?」


「ハッ! 何を聞くかと思えば……アイツはボクシングと空手を使うだけで、私はMMAと日本拳法も使う。どっちが強いかなんか聞くまでもないだろ?」


 一般的にはボクサーや空手の使い手よりもMMAの方が強いと思い込まれている。


 確かにMMAの試合ではボクサーやキックボクサー、それに空手の使い手たちが芳しい成績を収めていない事から、そう思われても仕方が無い面がある。


「あっそ。じゃあ、元ボクサーの俺にそれを証明して見せろよ」


「元ボクサーか……やはり、お前が伊吹尚弥で間違えないんだな?」


 環の顔に緊張が走る。


 身長190センチのラガーマン相手でも全く怯む事が無かった環が、武と同じぐらいの小男相手に緊張しているのは如何いう事だ?


 伊吹について何か知っているのだろうか?


「だから、さっきから俺がその伊吹様だって言ってるだろ? この後も雑魚が控えていてメンドクセーからさっさとかかって来いよ」


「何だと! だったら試してみるか!」


 雑魚呼ばわりされ、頭に血が上ったあたしが伊吹に詰め寄ろうとすると、環が腕を伸ばし、あたしを遮った。


「どけ! 環!」


「止めておけ。アイツがあの伊吹だとすれば、お前の敵う相手じゃない」


 環はそう言いながら足が少し震えていた。


「あの伊吹って……何なんだよ! あんな武みたいなチビ相手に何をビビってるんだよ!」


「……伊吹尚弥って聞いて誰かもわからねーのか? まぁ、私が聞いた話は伝説みたいなもので何処まで信憑性がある話か分からないけどな……」


「伝説だと?」


 そういえば、伊吹尚弥という名前を病院で聞いた時も以前何かで聞いた事があるかのうような引っかかりがあったのは事実だ。


「……私も半信半疑だったが、さっきお前のところのチビを秒殺にしたのを見て伝説じゃないって確信したぜ……とにかく、ここは私に任せておけ」


 環は日本拳法の中段構えに構えた。


 MMAの構えではなく、MMAよりも喧嘩向きと言われている日本拳法の構えを取ったのは、それだけ環が本気だという事だろうか。


 一方の伊吹はだらんと腕を垂らし、顎を前に出して挑発するように舌を出した。


「舐めるな!」


 環は距離を詰めると、伊吹は華麗なステップでサークリングを始め、間合いを取った。


 これでは下手にタックルを仕掛けてもサイドを取られるのがオチだ。


 環もラインを切る、つまり相手に胸を見せないように斜めに構える事で攻撃に入りづらくする為に方向転換しながら伊吹を追うが、伊吹の桁違いのスピードに追いつけない。


 相手の胸のラインを取ることを「内を取る」と言うが、このスピードでは内を取るのは困難なはずだ。


 だが、そこは女子のアマチュア格闘家では最強と言われている環の事だ。


 あらゆる状況における攻撃パターンが身に着いている。


 離れた距離から両足ステップで飛び込み、伊吹との距離を一気に詰めるとジャブを放った。


 頭の高さが殆ど変わらず、バネ・スピードともに申し分なく、伊吹から見れば離れた場所に居る環が突然目の前に現れた様に見えるだろう。


 だが、そんな攻撃を伊吹が難なくスウェーバックして躱した瞬間、信じられない事が起きた。


 あたしから見て、背を向けていた環が糸の切れた人形のようにストン! と倒れた。


「オイ……マジかよ……嘘だろ? 冗談だろ?」


 あまりにもあっけないので、本当に冗談で倒れたのかと思ったが、環はピクリとも動かない。


「環……オイ! 環! しっかりしろ!」


 地面に突っ伏した環から返事がない。


 恐らく実力では勝子と互角かそれ以上かと思われる環が……武程度の小男に二十秒も持たずにファーストコンタクトで倒されてしまった。


「一体何を……やったんだ?」


 あたしは伊吹がどんな攻撃をしたのかすら見えていなかった。


 香月に続き、環まで秒殺されてしまった事に戦慄を覚えざるを得なかった。


「如何したんだ? 総合やら日拳やらの使い手はボクサーより強いんじゃなかったのか?」


 ボクサー……伊吹尚弥……そして秒殺。


 この三点が線となり、うっすらと聞き覚えがあった伊吹尚弥が何者であるのか、ハッキリと正体を思い出した。


「伊吹……ナオヤ……まさか! 『()()()()()』伝説の中学生ボクサーがお前の事か!」

 次回。伊吹尚弥の驚愕の過去が明らかになります。

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