知恵
マックでグラコロなどをいただいておりますと、JKの群れがやってきました。
「うわあ、JKの群れだ」
私はそう思いました。JKは三人入ってきました。これはもう間違いなく群れと言ってもよいでしょう。誰だかはもはや記憶にもないのですが、Twitterのタイムライン、これもまたおぼろげな不確かな記憶ですが、確かTwitterのタイムラインでその昔、
「一人だったら国宝、集まると○○」
JKというものをその様な言葉を用いて表現された方がいらっしゃいました。おお、これはさすがいいねをたくさんもらっている人のお言葉だなあ。それを受けて当時の私はそのような事を思いました。しかし当時は他人の発言等々に対して、いいねもリツイートもしないというバカげたポリシーを掲げておりましたので、今となっては誰が言ったのか、あるいは誰かの発言をリツイートしたのかいいねしたのがタイムラインに流れてきたのか、その辺も定かではありません。
「マジでえ?」
「そんなのありえないしょ!」
でまあ、とにかくその日その場所、マックに発生したJKの群れ。その群れはあの時タイムラインで流れてきた表現にぴったりと当てはまるタイプのそれでした。
「マジウケる―」
「ぎゃはははは!」
的な。自分以外にも他のお客様もいる場においてそのような。隣人のピアノがうるさいってその家の人達を残らず包丁で刺して殺してしまう事も辞さないタイプの人間がいたら即諍いが発生しそうな。
とはいえ私というのはそのような場面においても鷹揚に構えることができます。私自身昔の自身を恥じておりますので、大人になってもそれが忘れられなくて、
「ああ、自分もあの年頃の頃はこうだったのかなあ」
と思えるからです。ありがたい事です。そういう場面においてもイラつきなんかは感じません。何を感じれるものですか。自分だって昔ああだった。あれに近いような、あるいはもっとひどい時すらあったと思えるのに。
ですので、ただ黙って黙々とグラコロ等々をいただいておりました。
グラコロを食べて、ポテトを食べ、シェイクを飲んでいました。シェイクはもちろんバニラです。
「それでそれで?最近は?」
「あースマブラ?」
そうしているうちにJKの群れは各々注文を済ませて、まとまって開いてる席に着席し、トーンもそのままの状態でマックの某かを食べながらスマブラの話を始めました。
スマブラいいなあ。
聞き耳を立てていたわけではないのですが、どうしてもトーンが高い状態での会話でしたので、群れの話は自然と耳に入ってきていました。
私はスイッチを持っていないので、うらやましく思いました。
「知恵がさ、すげーイラつくんだよね」
JKの群れの一人が言いました。
「あー」
「わかるー」
それに対して他の二人も同意していました。
しかし私は脳内に?が発生してえ?ってなっていました。
知恵?
勿論、字は私が勝手に当てたものです。友達か知り合いか、わかりませんが、とにかく知恵っていう人とやってるとすごく腹が立つという事でしょうか?
知恵さんは強いんですねきっと。
あるいは決め所をちゃんとわかっているのか。
例えばカービィなんかで相手を吸い込んで一緒に落ちて自滅するとかそういうのです。スイッチのスマブラはやっていませんので細かいシステムはわかりませんが、でも例えば自分が最後の一機の時、相手がまだ二機あって余裕があったらそういう終わらせ方をする人もいるようです。いると聞いたことがあります。
非道な作戦ではありますが、でもそれもまた一つの作戦と言えます。キャラ選びから考えてやっているという事だと思います。
きっと勝つことに執念を燃やしているんでしょう。知恵さんというその方は。
それを責めるのはなんかなあ。違うなあ。
私が勝手にそんな事を考えていると、
「あの下から出てくる交通標識みたいなのが腹立つんだよねえ」
と一人のJKが言いました。
「わかりみ」
「それな」
「・・・」
それ、しずえさんじゃん。やったことはありませんが、ようつべでちょっと見たことがあります。それしずえさんです。しずえさん。あれでしょ?どう森の、ああ、今はあれか、あつ森か。
しずえさんじゃん!?
知恵ってなんだよ!?
なんだよ知恵ってなんだよ!
ぶぶううう!
その瞬間もうだめでした。
私はマックシェイクを噴出していました。
「げえほ、えほ、えほ、えほほおほ」
噴き出してなお、笑いが込み上げてきました。何でしょうか、ツボでした。まさかそんな角度から責められるとは思ってもおらず、そもそもそんな事期待してもおらず。
だから、するりと何かが入り込むように。
私は公衆の面前で噴出していました。
噴き出しながらあたりを見回すと、JKも含めてみなこちらを呆然と見ていました。
呆然と。
「げへえ、えへえ、えへへえ、へへえ」
このままでは、JKに、JKの群れに気持ち悪いと思われる。
それどころか、もしかしたらTwitterとかに書かれるかもしれない。インスタとかに私の様をあげられるかもしれない。
そんで、仲間内で、
「きしょ!」
とか、
「ww」
とか、そういう目に合うかもしれない。
仕方なかったので、
「私はコロナです!」
と、その場で宣言しました。
店内は未曽有のパニックになりました。もちろん私もその後警察に捕まり、威力業務妨害となって前科一般というほぼほぼ社会的には死んだようなものになりました。
警察にもすごい怒られましたし、当然マックは出入り禁です。再開するまでに凄く時間がかかったとのことです。
親にも泣かれました。
反省文も書きました。
土下座もしました。
ヤフーニュースにもなりました。
しかし、仕方ありませんでした。あの時あの場を乗り切るにはそれしかなかったのです。少なくともあの時他にいい案は浮かびませんでした。だから仕方なかったのです。JKの群れよりも私の方がゴミになりました。しかし仕方なかったのです。そう思います。
今はもう郷里に帰って実家で暮らしています。
勿論実家の地に蔓延する噂話ネットワークの格好の的です。
父と母にも冷たくあたられています。
風呂に入って剃刀を見るたび、死が頭をよぎります。