暴走女と結婚できるか
この話はファンタジーでも一部フィクションでもありません。
軽い気持ちで読んでくださいね。
【あらすじ】
結婚を考えいた女性の意外な一面を目撃した男が、友人と飲みながら相談する話。交通ルール無視、マナー違反な描写がありますが、やっちゃダメだよ。車は凶器、安全運転第一で^^心にゆとりを持ちましょう。
人のにぎわう居酒屋で若いサラリーマン二人が酒を飲んでいた。細身だが程よく筋肉のついた顔立ちのいい男性と柔らかな髪が目を引く優しそうな男性だ。
二人は紺のスーツの上着を脱ぎ、ワイシャツの袖をまくってしばらく当たり障りのない話をしながらビールを飲んでいたが、顔立ちのいい男性がふっと表情を消してため息を吐いた。
「俺さ、彼女と結婚する勇気がなくなってきたんだ」
営業職の男のいい声が、なんとも情けない言葉を漏らす。向かいに座っていた友人はビールを飲むのをやめてまじまじと男を見つめ返した。
「え? なんで? 優しくて美人な彼女だろ。お前、本気で惚れてたじゃないか」
これがマリッジブルーかと驚く友人に、男は片手で目を覆ってうなだれる。
「そう、なんだが」
「何があったんだ」
「実は……」
男は数日前に目撃したことを、なるべく客観的に友人に話し始めた。
「数日前、親父とおふくろが山に行きたいから俺の四駆車を貸してくれっていうんで、出勤前に実家によって親父の車と俺の車を交換したんだよ。で、そのまま渋滞の中会社に向かってたら左折専用レーンをぶっ飛ばしてく車がいたわけ。その車は左折もせずに直進しようとしたんだけど、直進側は渋滞してて親切に入れてやる奴なんていなかった。結局俺も入れてやらずに信号が赤に変わるまで交差点をふさいでて、直進の車が途切れたところでようやく入ってきたんだよ。俺の車の二台後ろに」
「??」
結婚する勇気がないのと出勤の話が結びつかなくて首を傾げつつも、とにかく最後まで話を聞こうと気を取り直す友人。男はビールを飲みながら話を続けた。
「見覚えのある車だなって思ってたんだ。車種も色も彼女と同じで、国内で走っている数もすくないから。ひどい運転する車だと思って、どんな人間が運転しているのかと見てみたら……彼女だった」
あちゃーと友人が顔をしかめる。
「まぁ、それだけだったら遅刻しそうだからと誤魔化せたかもしれないが、後ろの車が途中でいなくなって彼女の車が後ろにきたら、煽られたんだ。車が違ったから俺だと判らなかったんだろうけど、それでも社会人として、運転免許を持つ人間としてやっていい行為じゃない」
「あ、ビール二つね。あと枝豆」
これは酒でも飲まないとやってられないと判断した友人が通りがかった店員に追加の注文をするのを見ながら話を続けた。
「渋滞中はメイクしながら走ってるし、車間距離もあけずに幅寄せしてくるし……挙句の果てに渋滞で交差点まで百メートルくらいあるのに右折レーンが開いてるからか、反対車線に出て猛スピードで走っていったんだ。もちろん朝だから対向車も来てたんだけど、平気な顔してブレーキ踏まずに走ってくんだよ。で、駐車場で会ったら『おはよう』ってちょっとおっとり気味に挨拶してきて……なぁ、このまま結婚していいと思うか?」
打ちひしがれている様子の男を見ていると同情するが、友人は新しくきたビールを半分ほど飲み干してから自分の考えを口にした。
「まずこの相談は他に二人にすること。俺を含めた三人の答えを聞いて、さらにお前が自分で決断すること。いいか?」
ここで彼との友情にひびを入れたくなかった友人は、それでも男のために事実を告げる。
「彼女の車ってアレだろ。こげ茶とベージュのツートンカラーの海外車。ソレ、常習だぞ。俺はいつもその道使って通勤するけど何度も見てる。運転している人間まで気にしたことはなかったけど、すげーおばさんだなって思ってた」
男がジョッキを握る手に力を入れるのが見えた。
「結婚してもいいかどうかは判らないが、その彼女の隣にお前やお前の家族、将来できるだろうお前たちの子供を安心して乗せられるかどうかなんじゃないか? 怖くて、危なくて乗ることができないなら、俺はやめておいたほうがいいと思う。奥さんの運転する車に一生乗らないなんて無理だからな」
しばらく考え込んでいた男はそれでも急な飲みに付き合ってくれた友人に礼を言う。飲み代はいつものように割り勘にして帰ろうかとしていた時、男の携帯電話が着信を知らせた。届いたメッセージを見た男の顔が一瞬強張り、何かをあきらめたような男がしばらく考えてから返事を返して店を出た。
「さっきのメッセージ、彼女からだった。『迎えに行こうか?』だって。代行で帰るって送ってから、慌てて車を置いておけないからって足したけど」
途切れた言葉に友人が慰めるように背を叩く。
車は有料駐車場に入っているのだから一晩置いていても大したことはない。迎えに来てもらって、彼女の家に泊まって、明日の朝だって彼女の車に乗せてもらって出勤すればいいだけの話なのだが。
肩を落として歩いていく男を友人はそっと見送った。彼はどうするのだろう。
ちょうどよく走ってきたバスを見ながら、友人は何があろうとも男の味方をしようとパスケースを取り出したのだった。
実際目撃した時は目が点だったけど、それが若い女性だったことにもっと驚いた。
ああいうのってオジサンとか、中二拗らせたままの若者がするのかと思っていたから恥ずかしくなったよ。全国のオジサン、中二拗らせた若者たちよ、ゴメンナサイ。
ちなみに。貴方ならどうしますか?^^