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俺「頭からキノコ生えてきた」医者「シメリタケだね」

作者: 初桜沙莉

 朝起きて、頭を掻くつもりで頭を触ったら、左頭あたりになんか変な突起を感じた。気になって鏡を見てみると、血色がいいとは言えない陰気な顔と、左頭から生えている黄土色っぽいナメコみたいなキノコが映っていた。


 「うわ……キノコ生えてる」


 このまま放っておくとキノコに乗っ取られてキノコ人間にされてしまうかもしれない。昔そんな特撮ドラマを見た気がする。


 「病院へ行こう」


 そう決めてネットで近くの病院を探す。でもこの場合どこに行くべきだろう?内科?外科?感染症科?保健所?そもそも、キノコが生えたなんて事例、あるのだろうか?


 「『キノコ 頭 生えた』検索っと」


 「『保健所に連絡してください』……ウソだろ。俺、電話苦手なんだけど……ていうか保健所に行かなきゃいけないヤバい病気だったりするのか?」


 この地区の保健所に電話をかける。


 「あ、あのっ、もっ、もしもし」


 『はい。こちら○○保健所です。どうされました?』


 「あぅ、頭から、キノコが生えまして……」


 『キノコですね。わかりました。では……』


 電話に出た女の人……多分……は、すごく落ち着いて対応した。名前と住所を聞かれた後、キノコの形、生えている箇所を尋ねられた。そしてキノコ外来がある病院を紹介してくれた。ていうかキノコ外来ってあるのか……。


 俺はヨーグルトを口に流し込んで、歯磨きをしてジャージとTシャツ、黒いパーカーフード付きを着て家を出る。フード付きにしたのは、もちろんキノコを隠すためだ。


 バスに乗って件のキノコ外来のある病院に行く。内科、呼吸器科、消化器科の横に小さく、キノコ外来と書かれている。受付を済ませて雑誌を読んでいると、ほどなくして呼ばれた。


 「ほう。これが君のキノコかね」


 「ええ、まぁ」


診療に当たったのは、丸顔のおじいちゃん先生だった。あたまはほとんどハゲている。ていうか「君の」って……。


 「ふーむ。これは見た感じシメリタケだね」


 「シメリタケ?」


 「そう。湿った環境で育つキノコなんだけど、このキノコの特徴はなぜか人間に生えてくるんだ」


 「人間に」


 「このキノコが生えると、まぁ1年ぐらいは生えっぱなし」


 「1年」


 「ほっといても人体に影響はないから、そのままキノコと共存することだね」


 「キノコと共存」


 「手術もできるけど、すごく難しい上に、抜けた跡は髪が生えてこない……つまりハゲる。私の頭のようにね」


 「……」


 結局、レントゲンも取ることも、薬をもらうこともなく、そのまま診療は終わった。手術は、やめておいた。お金に余裕がないからね。


 「キノコと共存かぁ」


 病院の帰り道、フードをかぶったまま歩く。少なくともあと1年はこのままか。小学生の三人組が俺の前を通り過ぎる。


 「あ、フシンシャ!」「黒いフードをかぶってる……アヤシイ」「ミコちゃんがあぶない!」


 「うるせー!俺は不審者じゃねぇ!引きこもりだ!ていうかお前ら学校はどうした!午前中だぞ!」


 「「「バレた!逃げろぉ〜〜」」」


 「はぁ……」


 小走りで逃げていく不良?小学生達を見ながら、俺はとりあえずフードをかぶるのをやめよう、と思った。


 といっても、この頭のキノコが目立つのは困る。引きこもりとはいえ、コンビニに外出したりはするのだ。他人の目は、やはり気になる。不審者と言われて傷ついたわけじゃない……うん……。


 駅前の通りに出ると、ちょうどいいところに帽子屋があった。入ってみる。


 「いろんな帽子があるな」


 二刀流の選手で話題の赤いキャップ。手品とかでよく見る黒いシルクハット(鳩のぬいぐるみ付き)、ピンク色のパーマの帽子……いやこれはカツラ……、ネコミミ付き帽子、ペレー帽、空を飛べる豚が付けてる飛行帽にゴーグル……珍商品の割合のほうが多くない?


 「おさがしものですか?」


 「え、ええ、はい」


 どの帽子にするか迷っていると、店員さんにたずねられた。茶色い髪がきれい。帽子はしていない。帽子屋なのに。


 「あのあのっ、頭を怪我しちゃって、腫れた部分を隠したいんですけど、なんかいいの、ない、ですかっ」


 「あぁ、それならこの『ちびわら帽子』とかどうですか?」


 「ち、ちびわら帽子」


そ ういって店員さんが持ってきた帽子はなるほど、確かに小さい麦わら帽子だった。


 「これなら、傷口を隠しつつ、ちょっとオシャレにもできますよ」


 「え、あ、はい」


 オシャレにしようって発想はなかったけど……まぁ、これでいいか。


 僕は『ちびわら帽子』を買って帽子屋をあとにする。値段は3,000円。税込みだ。ちなみに、支払いはスマホのキャッシュレス。ひきこもりでも、時代に乗り遅れてはいない。ぽんぽん、という支払いの時の音が好きとかいう理由ではない……たぶんさ……。


 家の近くにたどり着く。ついでになので昼ごはんを買うことにする。いつもごはんやら日用品を買っているコンビニに吸い込まれるように入る。


 焼鮭と昆布のおにぎりと、500ミリリットルのサイダァを手にとり、レジへ行く。


 「いらっしゃいませ。あら。今日は新しい帽子なんですね。似合ってますよ」


 「え、あ、うん。ちょっとオシャレしようかなって。あ、タバコのエイトスターひとつと、フィレチキをふたつ」


 「いつものですね。かしこまりました」


 会計をしてくれる店員さんは、ちょっとした顔なじみ。僕よりちっちゃくて、かわいい子。この子が見たくてコンビニに行っているとかいえない。ちなみに、タバコも見栄張って購入してるだけだ。家には未開封の箱だけ増えていく。


 「1027円のお買い上げです」


 「1032円から」


 「かしこまりました……っっ5円のお返しです」


 「ありがとう。レシートはいらない」


 手渡しされた小銭を受け取る。手がほのかに触れ合ってあたたかさを感じる。時々恋しくなる。このあたたかさに。


 家に帰ると、ふとタバコが吸いたくなった。ライターを取り出して、買ったばかりのエイトスターを取り出す。ベランダに出て、入道雲を見上げながら、一服する。なんかしんみりとした気持ちになる。


 「これがタバコが旨いって気持ちかねぇ……」


 入道雲に向かって、煙を吐く。

 もくもくと登って、吸い込まれていく。

 入道雲の近くにはマッシュルームのてっぺんみたいな形した雲が……マッシュルーム?


 『1年くらい生えっぱなしだね』


 「……あ、頭のキノコ結局生えっぱなしのままじゃん!」


(完)

久々に短編かきましたよ〜

えらいでしょ?えらいよね?

あははっ(深夜テンション許せ)


頭にちっさいキノコ生えたら、かわいいよねー(妄言)


ではまたー。

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