姫君 -2-
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お姫様が妖精の言葉の意味を理解するには、少し時間がかかりました。ゆっくりと、地面に水がしみこんでいくように、言葉はお姫様の心の奥に届きました。そして、その意味を理解したとき、お姫様は凍えるような恐怖に息をのみ、胸の前で両手を強く握り、俯いてぎゅっと目をつむりました。
怪物は助けに来ると言ってくれました。怪物はきっと、必ず約束を守るでしょう。ならば、怪物がここに辿り着かないとき、それが意味するのは……
あなたは、何もしないの?
妖精はお姫様にそう問いました。
でも、いったいお姫様に何ができるというのでしょう?
王様はお姫様の話など聞いてはくれません。
二人の姉に相談しても、きっと鼻で笑われるだけです。
お姫様が騎士や兵士たちに頼んだって、決して助けてはくれないでしょう。
できることは何もないのです。
お姫様ができることは、せいぜい神様に祈り、涙を流し、救いが訪れることを待つことだけ。そして、それがいったい何の役に立つというのでしょうか。
お姫様は涙があふれてくるのを感じました。私はこんなにも無力だと、残酷な運命に涙して、そして、終わりです。やがて誰かが結末を教えてくれるでしょう。そしてそのとき、お姫様はもう一度、涙を流すのでしょう。それが喜びの涙であれ、悲しみの涙であれ。お姫様は、もうずっと、そうやって生きてきたのですから。
お姫様は今まで、自分で何かを為そうとしたことが一度もなかったことに気付きました。世界にはたくさんの悪意があって、怖いものがたくさんあって、自分にできることは何もなくて、ただ泣いていました。
何のために?
きっとそれは、変わらないため。今の自分のままでいるため。何もしないでいるための、言い訳を探していたのです。
私は何を守ろうとしていたのだろう。お姫様はじっと、自分の心の奥を見つめました。
言い訳を並べて、自分は無力だと言い聞かせて、お姫様が守ろうとしていたのは、美しいわけでも、特別頭が良いわけでもない、気が弱くて泣いてばかりいる、ちっぽけな、自分自身でした。
そんなもののために、私はここで何もせずに待っているの?
あの方を失うかもしれないのに?
あの方を失ってまで惜しむべきものが、私の中に本当にあるの?
お姫様は首を横に振りました。お姫様が失いたくないと思えるものは、あのみにくい怪物の他には、何一つ思いつかなかったのです。何もしなければ失われてしまうものがある。そしてそれは、何もせずに失ってしまってよいものでは決してないのです。
私があの方のために何かできるなんて、そんなこと思いつきもしなかった。
だけど……
お姫様は深く息を吸い、そして大きく息を吐き出しました。
世界に悪意が満ちてるってことも、
人が恐ろしくて身がすくんでしまうことも、
私が無力だってことも、
私が何もしなくていい理由にはならないんだわ。
お姫様は目を開け、ゆっくりと立ち上がると、顔を上げて妖精を見つめました。
ねぇ、
私に、何ができると思う?
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