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騎士と姫君  作者: 曲尾 仁庵
怪物
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怪物 -1-

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 どれほどの時間が経ったことでしょう。地面に倒れていた怪物の身体が、ピクリと動きました。そしてゆっくりと身体を起こすと、周囲を見渡し、唇を噛みました。妖精は怪物の前に飛んでいくと、


 よくこの傷で助かったもんだ。頑丈さだけは褒めてあげるよ。


と小憎らしい顔で笑いました。言葉とは裏腹にほっとしたような表情をしている妖精を見て、怪物は少し驚きました。妖精は自分の欲に正直な生き物です。得の無いことをしたり、まして他人を気遣うなどということは、とても珍しいことなのです。

 怪物はふと、自分の身体の傷が誰かに手当てされていることに気付きました。丁寧に処置された傷からは、もう血は流れていませんでした。怪物は妖精に目を向けます。妖精はぶんぶんと首を横に振りました。


 手当てしたのは僕じゃない。

 僕がやるなら魔法を使うし、

 あんたを助ける義理もない。


 怪物はそっと、傷を縛る布に手を当てました。いったい誰が、自分の手当てなどしてくれたのだろう。いくら考えても、怪物にはわかりませんでした。しかし、その誰かのおかげで、怪物は命をつないだのです。怪物は目を閉じ、恩人である誰かに感謝を捧げました。

 妖精はなんだか所在なさげに、怪物の周りをふわふわと飛んでいました。特に用はないのだけれど、なんとなく去りづらい。そんな雰囲気です。自分の欲に忠実なはずの妖精の、なんとも歯切れの悪い様子を不思議に思いながら、怪物は妖精に、頼みがある、と声を掛けました。


 何だって言ってみなよ。

 それにふさわしい対価があれば、

 どんな願いもお望みのままさ。


 おまえの欲しがるものなんて何も持っていないが、と前置きして、怪物は妖精に、伝言を頼みたいのだと言いました。


 伝言?


 妖精は拍子抜けしたような、訝し気な顔で怪物を見ています。

 怪物は真摯な眼差しで、妖精の瞳を見つめました。

 

 あの方に伝えてほしい。

 必ずお救いに参ります。

 それまでどうか待っていてください、と。


 妖精は、信じられないという顔をして、怪物の瞳を見つめました。


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