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騎士と姫君  作者: 曲尾 仁庵
はじまりとおわり
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現在 -32-

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 ぶぉん!


 怪物の太く力強い腕が、兵士の槍をその腕ごと叩き折ります。兵士は地面に倒れ、苦痛の叫び声を上げました。

 怪物たちを囲む兵士を指揮する一人の騎士が、兵士たちを蹴散らす怪物の姿を苦々しく睨んでいます。怪物はそのみにくい姿にふさわしい、恐ろしい力を持った化け物ですが、皆の力を合わせれば決して勝てない相手ではありません。しかし怪物は卑怯にもお姫様を自らの傍に置き、槍を避けるための盾として利用していました。お姫様を傷付けることは決して許されるものではありません。せっかく周りを囲んでいるというのに、兵士たちはお姫様を傷つけかねない位置からの攻撃ができず、数の有利を生かすことができずに、むざむざと怪物に蹴散らされているのです。

 いったいどうしたものか、と騎士が思案しながら戦いを見つめます。すると、一人の兵士が勢いをつけて鋭く槍を突き出しました。騎士は目を見開き、思わず叫びます。


 馬鹿野郎!


 槍を突き出した兵士もまた、しまった、という顔をしています。槍の先には怪物がおり、さらにその先にはお姫様がいました。もし怪物が槍を避ければ、槍はお姫様を貫いてしまうでしょう。そうなればここにいる兵士たちも、そして指揮を執っていた騎士も皆、死罪を免れません。騎士は顔面蒼白になり、祈りの言葉を口にしました。ところが。

 突き出された槍は怪物の脇腹を深く抉りました。怪物は槍を避けることができず、騎士たちは初めて怪物に大きな傷を負わせることができたのです。怪物は短く呻くと、自らを穿った槍を掴んで奪い取り、石突で兵士の胸を強く突きました。肋骨の折れる嫌な音がして、兵士は痛みに気を失い、地面に倒れました。

 その光景を見た騎士の頭に、一つの考えが閃きました。怪物は槍を避けることができなかったのではなく、避けなかったのではないか、と。そもそも、怪物はお姫様を『さらった』のです。ならば怪物にとって、何らかの意味でお姫様には価値があるということではないか。つまり、お姫様が傷付くことは、怪物にとっても、決してあってはならないことなのではないか?

 騎士は配下の兵士の一人に耳打ちしました。


 あの化け物と姫が直線状に並ぶ位置から仕掛けてみろ。

 姫を狙っているように見せるのだ。

 本当に姫に当てるようなヘマはするなよ。


 兵士は頷くと、前に出て距離を詰め、お姫様と怪物を串刺しにするかのように槍を突き出しました。加減された槍の一撃は怪物の腕に阻まれ、槍はへし折られてしまいました。

 騎士は確信を得たように、にやりと笑みを浮かべました。怪物は槍を避けませんでした。やはり怪物は、お姫様をかばっているのです。


 姫を狙って仕掛けろ。今度は本気でな。

 なに、姫はあの化け物が、

 しっかり守ってくれるであろうよ。


 騎士の命令はすぐに兵士たちに伝えられました。兵士たちはわずかの間、命令の内容に戸惑っていましたが、気持ちを立て直し、怪物に向かっていきます。幾人かの兵士が槍を振るい、怪物たちの動きを阻みます。怪物はお姫様を自らに引き寄せました。


 やれっ!


 騎士の鋭い声が響き、三人の兵士が槍を突き出しました。

 怪物は騎士の声に振り向き、騎士の目論見の通りに、その身に槍を受けました。

 怪物は倒れることを拒むかのように一歩踏み出し、歯を食いしばったその口からは血が溢れました。

 兵士たちが槍を引き抜き、傷口から流れ出る血が怪物の身体を染めていきます。

 怪物は手で傷口を押さえ、お姫様とつないでいた手を、離してしまいました。

 騎士はその、一瞬の機会を逃しませんでした。素早く前に出てお姫様の手を掴むと、思い切り引っ張って怪物から引き離します。騎士はお姫様と共に兵士たちの囲みの外にまで下がると、


 仕留めろ!


 兵士たちに向かって命じました。

 もはや何に対する配慮も必要なくなった兵士たちは、功を、名誉を、生き残った喜びを乗せて、怪物に槍を突き立てました。


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