現在 -19-
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木は太く長い枝を地面近くまでグッと下げると、
……乗って。
と怪物たちに言いました。どうやら枝の上に乗せて、追っ手の囲みの外まで運んでくれるようです。お姫様と怪物は木にお礼を言うと、慎重に枝の上に腰を下ろしました。ふたりが枝に乗ったことを確認すると、木は枝をもとの位置に戻します。地面まで下げていた反動か、枝は思いのほか勢いよく上がり、体重の軽いお姫様は危うく放り出されそうになりました。怪物がとっさにお姫様の手を掴んでいなければ、遠くへ飛ばされてしまっていたに違いありません。お姫様が驚きのあまり、胸に手を当てて目をぱちぱちとしています。木はお姫様の方に顔を向けると、たっぷりの間を取った後で、ぽつりと一言、
……失敬。
と言いました。妖精はあきれ顔で、なにやってんの、と言うと、妖精の口に小さな黒い塊を投げ込みました。木がそれをごくんと飲み込むと、お姫様を乗せている枝に、あっという間に小さな花が咲き、そしてみるみるうちに赤くて大きな二つのリンゴが生りました。
そいつはおまけさ。
食うや食わずじゃ逃げられるものも逃げられない。
お姫様はリンゴを手に取ると、口を一生懸命大きく開けて、かじりつきました。さらりとした上品な甘さとさわやかな酸味が広がり、お姫様は思わず、おいしい、と呟きました。怪物はリンゴを丸ごと口の中に放り込みました。お姫様の言う通り、とてもおいしいリンゴです。そして何より、この一つのリンゴだけでお腹がいっぱいになり、疲れも嘘のように消えてしまいました。驚いた様子で妖精を見る怪物に、妖精は、どんなもんだい、と言いたげな表情を浮かべました。
妖精は姿勢を正し、ふたりの正面で芝居がかった一礼をすると、
契約は果たされた。
また何かありましたら、なんなりとお申し付けを。
あなたが対価を支払う限り、僕の魔法はあなたの味方さ。
そう言って満足そうな笑みを浮かべました。そして妖精は、さりげなくお姫様の左手に輝く美しい指輪を品定めしながら、分かっていると思うけど、と前置きして、
昼の魔法は陽の光が作り出す影法師。
日没とともに消えてしまう。
太陽が隠れてしまう前に、次の一手を考えるんだね。
と言いました。怪物とお姫様が頷いたことを確認すると、妖精はふたりの頭の上にくるりと輪を描いて、そして森の向こうへと消えていきました。
お姫様が妖精の背中に、ありがとう、と声を掛けました。妖精は振り返ることも、止まることもしませんでしたが、
気にしないでよ。商売なんだ。
そう、声だけが返ってきたのでした。
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