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everforever  作者: 伊神讖
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自分が吐く白い息を見ながら、日が沈んだ12月の寒さを確かめる。大学の研究室の中は空調設備が完備しているから、研究棟から一歩外に出ると冷たい空気に立ち止ってしまいそうになる。


 ここは俺が通う大学。単科大学にしては敷地が広すぎるくらいだ。池も、丘もあり、おまけに、この近くでは比べるものがないほど広い城址公園が大学の敷地と隣りあっている。そのせいか、うちの大学は結構いろんな映画を撮るロケ地になっている。


 ここに入学した頃も寒かったが、今の寒さとはまた別なものな気がする。そういうどうでもいいことを考えながら、前から馴染みのある人影を見た。小走りで駆け寄ると、むこうが足音に気づいて、振りかえ話しかけてきた。



「おう、お前も終わったか。あれの進み具合は?」



 こいつは天野ひろ、同級生で同じAクラスだが、所属研究室が違う。


 そして、「あれ」とは今俺が考え、進めている研究テーマ、人の細胞膜に存在するホルモンなどの伝達物質を受付ける一個の受容体にマルチ機能をつける試みである。簡単に言えば、一個の伝達物質にしか反応を起こさない受容体にあるものをつけ、複数の伝達物質に反応をするものをつくる、空いたペットボトルの口にロートを乗せるようなものだ。


 


「ぼちぼちだよ。これから帰るのか?」



「いや、折角の一年一度のクリスマスイヴだから、弓道部のやつらとパーティーだ。そういうお前はこれから何かあるの?」



そう、今日はクリスマスイヴだ。と言っても何の予定もない。しいていうなら気になる場所があって、行ってみたくも思うが。


「真っ直ぐ帰る」



そう言うのも間違ってはいない。帰ってから行くつもりだから。



「そうかい。まあっ、クリスマスの楽しみ方は人それぞれだしな。じゃっ、おれはこれで。


「ああ」


 

 ひろが部室棟の方への道に入り、俺からちょっと離れたところで



「ゆう、メリークリスマス」



と背後から聞こえた。日の沈んだ後の大学は人気が少ないといっても、やはり大声でああ言われると恥ずかしい。面倒く思ってても、コートのポケットからケータイを出し、メリークリスマスと入れ、メールで送り返した。



xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx



 夜の駐輪場で自分の自転車を見つけるのは結構難しい。ケータイにライトをつけ、探し始めると、奥の方にいる人影に気づく。何かを探してるようにも見えるが気になっていても、面倒なことに巻き込まれるのは御免だ。自分の自転車を見つけ、カギを挿し、見ぬ振りをして帰ろうとするが、やはり声をかけられた。




「あのー」



 仕方なく、振りかえる。そこにいるのは女の子だった。先は暗かったから見えなかったし、寒かったからさっさと帰りたかったから、特に見なかったが、声を聞いて、女の子と気づく。



「はい、何でしょう」


「カギを無くした。」


「カギ?」



簡潔で分かりやすかった。だから思わず聞き返した。



「自転車のカギ、これから行かなきゃいけないところがあって、今からだと自転車じゃないと間に合わないから困った。」


「はあ」



 大体次には何を頼まれるかを察した。暗い夜道を女の子一人に歩かせるもの無理だし、俺は自転車を彼女に押し出した。



「これを貸してやる。高くつくからな。次くる時に適当なところに止めといてくれ。」



 俺の下宿はここから近い。坂はあるから、自転車は10分、歩いていっても20分で帰れる。



「ホントにいいの?

 ありがとう

 借りるね。」



そう言うと、彼女は自転車に乗り、走り出した。相当急いてるみたい。



「暗いから気をつけろよ」



と俺は追うように声をかける。自転車に乗ったまま、手を振って、返事をした彼女が遠退くのを見ながら、名前を聞くのを忘れたことに気づいて、再び白い息を大きく吐き出した。



 しかしその時、今年のイブの夜はまだまだこれからということを、俺は知らなかった。

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