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沈み込んでいた意識が浮上する。
深く永く自分を覆っていた夢から覚める感覚は、直接鉛を飲み込んだ様な重さを伴っていた。
視界いっぱいに広がる靄に星がちらつく。
まぶたを開けようにも、持ち上げられるものなどまるでそこにないようだ。
…………聴覚を刺激するのは、遠く、遠く、遠いどこかで聞こえる波打ち際のさざめき。甘く粘度のある潮風を嗅覚で感じて、意識は懐かしい黴びた香りを欲した。
何ももっていないのだ、欲を抑える術とて、ない。
全てが終わったとき弾き出されるのがこの意識なら、朽ち果てることすら、自分にはない。
ならば意識体としても寝ぬとき、最後に吐き出される先は、愛した海端が良い。
そうして残された欠片の軋むほどの念望は、満たされそうな器の声帯を、ただ一度だけ震わせた。